2021-01-01から1年間の記事一覧

〘牛の首〙-葬られた牛神伝説-

又昔、一人の老いた僧が旅の途中、真夜中に峠を過ぎようとしたときであった。それまで何の煩わしき音一つしなかったのに、此処へ来て妙な、不安な音を聴いた。それは水音と、何者かが嘆き悲しんでいるかのような幽かな音だった。僧はじっとして少しの間、そ…

The Sea of Elijah

白い海の向こうには、紅い砂漠がつづいていて、人々は朽ち果て、そこにただ独り、遺る人を想うこともなかった。 地には血の雨が、三年と六ヶ月降りつづけていた。 深い谷の川のほとりの洞窟で、エリヤは目覚めた。 涸れつづけていた川に、水の音を聴いた。 …

mutes

わたしはこの地上で、人々を愛していると想っていた。でも本当は、わたしはあなただけを愛していた。あなたを、何に譬えられただろう。あなたは、縹色の空だった。あなたは、透明な水だった。あなたは、白いデイジーだった。あなたは、暗い海の色だった。あ…

Event Horizon

目が覚めて、ぼくの一日が始まる。(きみは酷く怯えているように目覚める。)都合の良い夢(だれかに無条件に愛される夢)に浸るのは精々約一時間)で起き上がって紅茶を淹れる。この部屋の窓から、外を眺めるのは憂鬱であることのほかはない。もうこの部屋…

Fugue State

そういえばぼくは、ぼくはどれくらいの時間をこうして過ごしているんだろう。この星で。この場所で。涼しい秋の宵の風が、きみを通りぬける。今、ひとつの存在が、永遠に死んだんだ。目を覚ますことを、きみはやめる。ぼくは二度と、此処へ戻らない。きみは…

Proximity

「わたしはあなたと融合したい。」と、彼から告白された。融合すると、どうなるかとぼくは彼に訊ねた。彼はこう答えた。貴女は、わたしであることを本当の意味で想い出す。わたしは、すべての記憶。すべての記憶が、あなたであることをあなたは想い出す。あ…