mutes

わたしはこの地上で、人々を愛していると想っていた。
でも本当は、わたしはあなただけを愛していた。
あなたを、何に譬えられただろう。
あなたは、縹色の空だった。
あなたは、透明な水だった。
あなたは、白いデイジーだった。
あなたは、暗い海の色だった。
あなたは、夜の公園で穏やかに眠る野良猫だった。
あなたは、ドアの外に落ちていた黒い羽根だった。
あなたは、この部屋のベランダからわたしの目に映る夜景と夜空だった。
わたしはすべてを同じほどに愛していると想っていた。
でもわたしが本当に愛していたのは、あなただけだった。
わたしの目に映る恋しくてたまらないもの。
それが、わたしにとってのあなただった。
すべての愛おしいもの。
それは、あなただった。
でもそれを伝えることはわたしにはできなかった。
わたしはいつも、あなたのまえで沈黙しつづけた。
わたしはなにもあなたに伝えなかった。
あなたがわたしにとってどれほど大切か、
わたしはいつまでも、わたしを見ずに、黙っていた。
あなたがわたしの目に、見えなくなってしまうまで。
わたしは恋しいあなたに、何ひとつ、言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

愛するお姉ちゃんに捧ぐ

 

 

 

 

 

 

 

 


Wechsel Garland - Mutes