2018-01-01から1年間の記事一覧

夜明け前の声

今日で父が死んでから15年が過ぎた。 毎年、この命日に父に対する想いを綴ってきた。 人間が、最愛の人を喪った悲しみが時間と共に癒えてゆくというのはどうやら嘘であるようだ。 時間が過ぎて、父を喪った日から遠ざかってゆくほど喪失感は深まり、この世界…

全ての者が眠っていて、唯一起きているのは nur das traute hochheilige Paar.

今日はクリスマスイブ。僕が小学二年の時のChristmas Presentは夜と霧という本だった。父に買って貰ったのだ。当時、僕も父も、その内容を知らなかった。僕は布団の中でその晩、震えながら読んだことを憶えている。明治元年の話だ。勿論、夜と霧はその後の話…

この闇のなかに

こんな風に、独りで年を取ってゆくのは堪えがたい。そんなことを言ったって、仕方がない。そんな人はこの世界にごまんといるじゃないか。ぼくが堪えられないはずはない。何故ならぼくは神を愛している。神を愛しているなら、堪えられる。どんな苦しみにも。…

天使の悪戯

朝が来ない町。あの門を抜けて、彼らに着いてゆく。白い闇と灰色の闇と黒い闇。巨大な高層図書室の階段を降りてゆく。最上階は深海の底より遥かに深い地下にある。すべての本を調べ、自分の暮らしたい時間を選ぶ。堀当てたトンネルへ入ると十字路に行き当た…

ѦとСноw Wхите 第21話〈Streaks of God〉

昨日でСноw Wхите(スノーホワイト)と出逢って二年が過ぎたんだね。昨夜はとてもハイ (High)になって好きな曲を何度も声に出して歌ってた。英語の歌詞を見ながら英語の話せないѦ(ユス、ぼく)は必死に歌って、そして録音もしたんだ。近いうちにYoutubeにア…

Happy Days

人は幸福になるほど、不幸になる。それが神の美しいすべて。ぼくはそれを知っている。愛する一人娘が、この世界に存在するようになってから。ぼくが彼女を愛するほど、彼女が危険に侵される悪夢を日々夢見た。例えば彼女は明日学校の遠足だという。なんだっ…

The Lovers ー 主に奇すー

四十五日間、俺は生き続けたろうかな。そう想った。でも三ヶ月。俺は堪えて見せようかとも。そう、想った。俺たちはわからなかった。殺されつつ在るのか。変質しつつ在るのか。俺たちの主は、悲しみ続け、穴を切らせ、血を滴らす。男たちを支配しようとする…

NO Happiness

あれから、約三年あまりの時が過ぎた。ウェイターの男は三十五歳になっていた。今も男は独りで、ずっと暮らしている。だが一月前、男はあの家をとうとう離れた。彼女との恍惚な時間の残骸と化した、あの寒々しく悲惨な部屋を。真っ暗な狭いキッチンで赤ワイ…

Why The Fuck Did You Eat My Babies?

今週のお題「最近おいしかったもの」 此処は退屈な木漏れ日が落ちてゆく高校。生徒たちは、制服のボタンをそれぞれ一つずつずらし赦された気がして笑った気がした。 その眼差しはまるで黒猫たちとフェレットたちの殺到する空っぽの結婚式場の騒々しい最後の…

bones

何を隠そう、実はぼくの真の職業は”盗賊”だ。 生活保護を受けているというのは実は嘘である。 今から十年前、働くのが嫌になってから、ぼくは盗賊のSoul(ソウル)に目覚めたってわけ。 だからといって、ぼくは特別悪いことをしているわけではない。 何故か…

愚花

一人の男が、空ろな眼をして柵の間からその奥を見詰めている。午前三時過ぎ、ひっそりと鎮まり返った新興住宅地の一軒家の前で、男は何かを想い詰めた様な顔をして囁く。「育花(いくか)…育花……育花……」鼻息を荒くして苦しそうに喘ぎ、男は一階の窓の向こう…

Hotline Miami

※この作品は、暴力シーンやグロテスクな表現が多く含まれています。この作品はビデオゲーム「ホットライン・マイアミ」の二次創作物として設定、同じ台詞が出てきますが内容は異なります。 おい、此処は何処なんだ。俺(俺は女か?男か?それすらも忘れちま…

ѦとСноw Wхите 第20話〈Little Kids〉

上でジンを飲む子供たち 前庭の芝生 子供たちは歩いている男を見る 泥道 この子供たちは、空を見ると、彼らは彼のことを想う 炎に身を包んだ 子供たちはゆっくりと忍び寄り、後ろを歩く その年老いた男 まだ年を重ねてゆくまだ年を重ねてゆくまだ年を重ねて…

生霊記 第二章

また此処へ、戻って来た。きみはどうしてるんだろう? 今でもきみは虚無と闘っているのだろうか。前にそんなことをきみが言っていたことをよく想いだす。 きみに告白すると、ぼくはきみに恋をして、初めての真剣な小説、天の白滝を書き始めて、そして違う人…

Clonal Plant

男が女と別れてから、約一年が過ぎた。ウェイターの男は今夜も、気付けばこの駅にいた。あの夜、彼女に会えると信じて降りたバルティモアの駅である。男はまるで夢遊病者か偏執病者のようにあのライブハウスへ赴く。そして演奏される彼女の好きそうな音楽を…

Mother Space

「それは疑いもなく固いもので、なんともいえない色艶をしていて、いい香りがする。それはおれじゃないあるものだ。おれとは別のもの、おれの外にあるものだ。しかし、おれがそれに触れる。つまり指を伸ばしてつかんだとする。するとその時、何かが変化する…

ベンジャミンと先生 「羊飼い少年とオオカミ」

「みんなおはよう。ってもう終了時間まであまり時間はないが」 先生がしんどそうにそう言うと静かに席についているベンジャミンが真っ直ぐに先生を見つめて言った。 「先生、もしかして今日も、二日酔いですか?」 先生は恥ずかしがる素振りも見せずベンジャ…

ѦとСноw Wхите 第19話〈ファピドとネンマ〉

「明治二十六年五月二十五日深夜、雨。河内国赤坂村字水分で百姓の長男として生まれ育った城戸熊太郎は、博打仲間の谷弥五郎とともに同地の松永傳次郎宅などに乗り込み、傳次郎一家・親族らを次から次へと斬殺・射殺し、その数は十人にも及んだ。被害者の中…

DEATH OVER

あれから半年が経っても、男はまだ同じカフェで同じ服を着て、同じウェイターの仕事を続けていた。ここで今も働きつづけることは一つの希望にしがみつく、彼女が興醒めをすることだった。ここで働き続けてさえいたなら、彼女はまたここへ遣ってくるかもしれ…

バルティモアの夜

「嵐の最中、避雷針にくくりつけられているのに、何も起こりはしないと信じきって生きている、そんな感じの毎日だった。」(コルタサル短篇集「追い求める男」P121) 激しい運動や普通の性行為などでも心臓発作のリスクが大変高く死の危険性がある為、死にた…

赤い液体と白い気体

他に好きな男ができたんだ。だからきみとは、...別れたい。携帯から女は想わず、耳を離した。何か、堪えがたい声が、声を失ってそこに、その向こうに震えているのが見えた。電話口の向こうから、穏やかないつもの男の声が聴こえた。会って、話が...今から会…

ママといっしょ

ママはほんまにもう、おまえのせいで死ぬかもしれんわ。死んじゃいややママ。やないねん。そんな可愛い甘えた声でゆうてもなんの意味もない。おまえはなんべんゆうてもそうやってママに愛着し、依存し、執着し、お乳が欲しいておまえ何歳やねん。ふたつと、…

紙魚

気持ち悪いと言えば、最近、寝ていたら耳のなかで突如、ごそごそ言い出して、しまったあ!虫が耳のなかに入った!って想ってもなかなか出てこなくて、ずっとなかでごそごそゆうてるんですよ。それで身体を起こしたらやっと耳から出てきて足の上に虫が落ちて…

イエス様と老婆

おばあさま、おばあさま、今夜もよいお天気です。おばあさま、今日もイエス様のお話しをしてください。ミカエルはこの村で最初の捨て子。あの老婆に近づく者はミカエルだけ。荒れ果てたごみのなかに、生きた屍(しかばね)。ミカエルは今夜も、朝に起きて、戸…

ライト・シープ

小さな少女、アミが夜明け前に浜辺にひとり座っていると、にわかに、後ろから声を掛けられました。 「いったい何故、貴女は此処に座っているのですか?まだ気温は低く、身体が冷え切ってしまいませんか。」 少女アミは振り返ると、得体の知れない大きな男に…

Richard

専有面積56㎡半で一戸建ての二階、閑静な住宅地、ペット飼育可能、日当り良し、システムキッチン、サンルーム付き、風呂場はちと狭いが、最近リフォームしてるなこれは、結構綺麗だ。ウォシュレット、エアコン完備、TVモニターフォン、デパートとコンビニも…

Undeads

人が何故死ぬか。それは人が、この世に全(まった)き存在と成り果てたときに、結句死ぬのではないか。わたしはそういった考えに至り、この度、誠に、死ぬことを決意した。これを本気で止める人間は、数人かそこらはいるだろうが、どうか逝かせて欲しい。わ…

ロミオとジュリエット

おお、ジュリエット。ぼくのたった一人の愛の女神。なぜ今夜も、窓から顔を覗かせてくれないの?真っ暗な硝子を、もうどれくらい見詰めてるだろう。あの日の事を、きみはまだ怒ってる?きみのファザーとマザーに、初めて会いに行った日のこと。ぼくはあの庭…