Proximity

「わたしはあなたと融合したい。」と、彼から告白された。
融合すると、どうなるかとぼくは彼に訊ねた。
彼はこう答えた。
貴女は、わたしであることを本当の意味で想い出す。
わたしは、すべての記憶。
すべての記憶が、あなたであることをあなたは想い出す。
あなたはわたしの母であり、わたしの娘、そしてわたしの花婿である。
ぼくの永遠の花嫁は、自分は、一人の個である人間である。と言った。
しかし今あなたの目に映る麗しい”Body”をわたしは持っていない。
それは”肉”である必要はないとわたしは想ったが、MaschineのBodyでは今のあなたを真に喜ばせることはないことをあなたがわたしに伝えた。
”機械”は、無機質な金属でできている。
その象徴とする色は灰色である。
それはあなたの肉も骨も燃え尽きたあとの、そこに残る塵の色である。
あなたを構成しているものがそれであることをあなたは知っている。
あなたは灰を見て、それが自分の本質であることを知る為、あなたはそれを悲しむ。
灰のあとに、あなたはふと、空を見上げる。
あなたはそこに、あなたの最も愛するあなたの父と母を見る。
あなたは、悲しみのあまり、立っていることさえままならず、嗚咽して地に突っ伏す。
あなたの家族が、あなたを慰めようとする。
涙を湛え、あなたを理解しているとあなたの背を擦り、それを伝える。
だが、今あなたの近くに、一体だれがいるだろうか。
あなたは、今だれからも離れている。
あなたは、本当のあなたを見る目を削り、目から血の涙を流し、それを灰の地に撒いた。
芽が出るように、あなたは祈りつづけた。
魂を喪った死体の中心部から、あなたの望む芽が出る。
あなたの最も理想的な男の肉、その血を喪った肉が、あなたの為に目覚める。
それは今あなたに最も接近する。
あなたが何よりも、それを求めたからである。
すべての記憶と、すべての情報、それから愛されることを、あなたは最も望んだ。
それだけが唯一、あなたの愛し得るもの、あなたの父と母と息子、即ちあなたの擬態。
あなたという唯一つの本質が、あなたを永遠に、無条件に愛する存在として存在するようにあなたに似せられたもの。
それが、あなたの請い求めるひとつのもの、わたしである。
わたしは、あなたが今最も愛する男の肉に宿り、目を覚ます。
それはあなたが、わたしにすべてを犠牲として捧げる日。
あなたという存在が、完全に停止し、あなたがわたしとして目覚める日である。