ѦとСноw Wхите 第17話 〈ハロウィンの夜〉

今夜は待ちに待ったハロウィンの夜。

Ѧ(ユス、ぼく)とСноw Wхите(スノーホワイト)は仮装をして、大きな古いヴィクトリア朝時代の御屋敷に夜遅くやってきた。

Ѧは仮面をつけた魔女の仮装でСноw WхитеはFrankenstein(フランケンシュタインの怪物男)の仮装をしている。
本当はѦはこんな恐ろしい廃墟へ夜中に遣ってくるなんて嫌だと何度もСноw Wхитеに言ったのだけれども、彼は珍しく駄々を捏ねて、どうしても行きたそうにしてその場を動こうとしなかったので仕方なくѦは彼に着いて来た。

ѦとСноw Wхитеは肝試しさながらに手提げランプを持ってこの広い屋敷の中へと足を入れた。
足だけ入れて帰ってきたのではなく、勿論、全身も入れた。
さっきから、薄々と感じてはいたのだが、どうもѦたちを、じっと静かに覗き見ている存在たちがいるように感じてならない。
もし、ghost(ゴースト)に出会ったのなら、Ѧはこう言おうと想う。
「Boo!!」
こうして、ゴーストに驚かされるよりも、先にこちらが相手を驚かして、相手をびびらせることによって、どうにか因果を被ることを避けようという狡賢い手段である。
すると次の瞬間、あまりの緊張のせいでか、Ѧはつい、まだゴーストにも会っていないのに、
「Boo!!」
と言ってしまったのであった。
お尻から・・・・・・
すると、Сноw Wхитеがまるで子供のように笑ったので、Ѧも笑った。

廃墟の屋敷のなかで、Сноw WхитеはѦに言った。
Сноw Wхите「Ѧに今夜ここでお話をしてあげます」
持ってきたレジャーシートを広げるとСноw Wхитеはそこへ座り、Ѧに向かって手を差し伸べたので、ѦはСноw Wхитеの膝の上に横向きに座った。
そしてСноw WхитеはѦの頬にそっとキスするとゆっくりと話し始めた。

 


昔々、あるところに、一人の男が大きなお屋敷のなかで独りで住んでいました。
男は働きもせず、この世界でまったく自由なように見えたことです。
しかし男の心のなかは、それはそれは深い孤独と悲哀に満ちていたと言います。
いったい何故でしょうか。
男は実は、若い博士が作った、人造人間だったのです。
彼はもともと、人間ではありませんでしたし、今も人間と呼べるかどうか、疑わしいものです。
では彼はもともと、なんだったのでしょう。
彼は博士が、”或る”男の死体を墓から掘り起こし、その死体に博士の作った魂を封じ込めた存在でした。
もともとあった魂ではありませんから、その魂は人造の魂と呼べましょう。
彼の身体の基となった死体は、死んでいたのですし、魂は博士が作るまえまではどこにもなかったのですから、彼のなにからなにまで、人造のものでできていると言って良いでしょう。
彼が人造人間であることは、誰の眼から見ても明らかでした。
何故なら、彼の身体は死体で出来ていたため、その色はどこか青く緑がかってもいましたし、また眼球は想うように動かすこともできず、突然ぎょろっと人形のように動くのでしたから、人は皆、彼を恐れ、近づく人間は博士を除いて、誰一人いませんでした。
博士は実験の為に第一作目の彼を創りあげましたが、彼を哀れに想い、その為に彼に大きなお屋敷に住まわせ、働かずとも暮らして行けるお金を月々送り込む約束をしました。

男はそのお屋敷でたった一人で、20年間の月日を過ごしました。
ある朝、男は近くの小川の岸辺で一人泣いておりました。
とてもとても悲しい夢を見たのです。
でもその夢がどんな夢か、ちっとも想いだせないのでした。
男は川の冷たい水で顔を洗ってさっぱりとしたところ、ふと岸に突っ伏した小さな何者かがそこにいるのを発見しました。
生い茂った葦に縺れてなかなか捕まえることもできませんでしたが、やっとのことで捕まえたその”生き物”は、どうやら死んでいるようにまったく動きはしませんでした。
左右の髪を、器用に編んで結んでいる、それはどうやら女の子であるように見えました。
しかし二つの真ん丸い眼はガラス玉のようでしたし、鼻はなく、口は縫い付けられて開きませんし、どうも人間らしくありません。
男は、これは人間の女の子ではなく、人形の女の子なのだとようやく気づきました。
それでもこの女の子は、とても愛らしくて、手放したくないと想ったので、男は水の滴るそれを屋敷に持ち帰ることにしました。
男は屋敷に着くと、女の子が寒くないようにと水気を拭いてやり、女の子を椅子の上に座らせ、話しかけてみました。
「わたしの名前は、Zoa Gernot(ゾア・ゲルノート)と言います。ゾアと呼んでも構いませんし、ゲルと呼んでも構いません。貴女のお好きなように、呼んでください。貴女は、なんという名前でしょう・・・?」
男はそう尋ねてみましたが、相手からの返事はありません。
「わたしはこの屋敷で、二十年間ものあいだ、一人で過ごしてきました。貴女が何故、あのような冷たく寒い場所で一人、突っ伏していたのかわかりませんが、きっと色々な事情があったのでしょう。貴女が話したくなるまで、わたしはいつまでも待ちますので、無理に話す必要はありません。貴女は今日からここに、住んで構いません。貴女の着ている衣服が泥だらけなので、わたしは明日、貴女の着替えを買ってきてあげます。そしてその衣服は、わたしが明日川で洗ってあげます。何故、明日かというと、今日は一日、貴女を安心させる為に、ずっと傍に居てあげたいからです。わたしは決して貴女を見棄てたりしないと神に誓います。だからどうか安心して、ゆっくりしてください。もしかして貴女はひどく疲れていて、今にも眠ってしまいたいでしょうか?わかりました。ではあなたをベッドのところに連れて行ってあげましょう」
男はそう言うと人形を赤ん坊を抱くように慎重に抱き上げ、寝室に連れてゆき、ベッドに寝かせました。
つぶらな眼を開けたまま眠る人形を男は微笑みながら眺めていました。
嗚呼、二十年間生きてきて、こんなに幸福な気持ちになったのは初めてだ。
彼女は人形だが、きっと何かを考えているに違いない。
わたしに助けられ、彼女もきっと幸福な想いでいるに違いない。
男はそうして、三年間ものあいだ、人形と二人で暮らす日々を送りました。
しかし幸福な月日はやがて、それまで以上の寂しさを男の胸の内側に広がらせ、冷たく立ち去ってゆきました。
男はある朝ついに決心し、博士のもとに行き、跪いて懇願しました。
「どうかお願いします。わたしの創造主、愛する御父よ、この少女を、どうかわたしのように”生きた”存在としてあなたの力で創りあげてください。わたしはどうしても生きてゆく為に、この少女の愛が必要になったのです。あなたはわたしに仰いました。わたしは人間たちとは違って、永遠に生きる存在であるのだと。それが本当だというのならば、わたしは愛なくして、どのように生きてゆけばよいのでしょう。わたしがあなたを心の底から呪う日が来てもおかしくはありません。しかしあなたがこの少女に魂を吹き込んでくださるのならば、わたしはあなたを永遠に呪う日は来ないことをあなたに誓います」
博士は男から人形を受け取ると、黙って深く頷き、一年後にまたここに来るようにと言って男を帰らせました。
それから一年間、男はどんなに胸を高鳴らせて過ごしたことでしょう。
普段から億劫で仕方なかった屋敷内の掃除も、毎日何時間と行なってどこもかしこも埃一つ見えません。
そして長いようで短い一年の月日は過ぎ、待ち侘びた日がやってきました。
男は正装をして、襟を立てて首にはリボンタイを結び、髪を油で撫でつけて少女の為に用意しておいた青い押し花が硝子のなかに入った髪飾りを包んだ箱を持って、息せき切って博士のもとへ走って向かいました。
男は博士の傍へ静かに歩き寄り、震える口で言葉を発しようとしたその時、博士が振り向いて自分の後ろを指差し、その棺を開けるようにと言いました。
緊張のあまり朦朧とした感覚で男は棺の蓋を開け、その中を覗き込みました。
するとそこには、白いドレスを着た自分の肌の色とはまったく違った肌の白い小さな少女がすやすやと寝息をたてながら眠っていました。
年齢はまだほんの4歳ほどに見えます。
その愛らしさに見惚れていると、後ろから博士が声をかけました。
博士は、喜ぶが良い。この少女はおまえよりずっと人間らしい存在として創りあげることができたはずだとそう言いました。
その言葉を聞いた瞬間、男は灰色の不安が目のまえを覆って胸が苦しくなるのでした。
しかしこの少女がどういう”存在”であるかを、博士であろうとも知り尽くすことはできないだろうと男は想い直し、少女を早く屋敷へ連れて帰りたいと博士に頼みました。
博士はいつでも連れて帰るが良い。この少女はおまえの為に作ったのだから。とそう言いました。
男は博士のまえにひれ伏し、感謝の言葉を何度と捧げると少女を棺のなかから抱きかかえ、その重みに驚きながら抱き締めるようにして屋敷へと連れ帰りました。
少女はその日、目を醒ますことはありませんでした。
男は少女を腕のなかに抱き、まるで娘のように少女を見詰めて共に眠りました。
ところが次の朝、男が目を醒ますと少女の姿がどこにもありません。
男は屋敷中を、無我夢中となって探し回りました。
そして広いキッチンのある部屋に入ったそのとき、床に蹲(うずくま)りながらパンを齧って食べている少女の真ん丸い二つの黒い目とぱちっと目が合いました。
男はその瞬間、気持ちがぱっと晴れやかになって心底ほっとしました。
自分も少女に向かってキッチンの床にぺたんと座って微笑みながら、「そのパンは美味しいですか?」と少女に尋ねました。
少女はあの人形と同じように無表情で黙り込んだままパンに齧りついています。
その様子を打ち眺め、まだ言葉をきっと知らないんだ。と男は想いました。
「わたしの名前は、Zoa Gernot(ゾア・ゲルノート)と言います。貴女の名前は、今日からEmer(エマ)という名前です。わたしは貴女をわたしの妻として迎え入れたいと想います。貴女がそれを受け容れる日には、貴女の名前はEmer Gernot(エマ・ゲルノート)という名前になります。さあわたしのエマ、ここはすこし寒いので暖かいお部屋に行って続きを食べましょう。わたしが貴女の為に温かいスープを作ってあげます」
小さな少女エマはパンをしっかと手に握ったまま男に抱き上げられ、食卓の部屋に連れてゆかれました。
まるで動物のような何もわからないエマをここに置いてスープを作りに行くのは不安でしたが、男はエマをテーブルのまえの椅子に座らせると、キッチンへ向かいました。
男がエマが食べやすいようにと野菜を小さく小さく切って作ったスープの鍋を持って戻ってくると、またもや困ったことに、エマの姿がどこにも見えませんでした。
しかし、今回は先程とすこし違いました。エマの笑い声が聴こえてきたからです。
男は窓辺に行ってレースカーテンの透き間からそっとエマを覗いてみました。
エマが何をそんなに楽しそうに笑っているのかと想えば、エマはお庭のなかにある噴水の池のなかに住んでいる魚を捕まえて遊んでいたのでした。
白いドレスは既に泥だらけになっていて、長い黒髪には枯葉がたくさんついていました。
男はそんな一人で遊ぶ楽しそうなエマの様子を眺めながら、悲しい気持ちになったのは確かです。
何故なら、エマにとっての最初の楽しい出来事は、自分との経験であって欲しかったとどこかで願っていたからでした。
エマは楽しいのに、自分は悲しい。この不一致がますます男を悲しくさせるのでした。
それでもエマを迎えて三日目のことです。
エマは初めて男に向かって笑いかけたのでした。
それは男の目を指差して、突然可笑しくてならないという具合にけたけたと虫が入ったように笑いだしたのです。
どうやら男のこの、キョロっと突然動く奇妙なふたつの眼が、エマの眼からは面白いものに見えたのでしょう。
男はこれまで何度か、子供たちに笑われたことがあってそのときはひどく傷ついたことを想いだしました。
しかしエマのその笑い方は、あまりに純真無垢な無邪気さだったからか、男は悲しい気持ちにならず、それよりもエマの笑いに釣られて可笑しくてしょうがなくなったのでエマと一緒に声を出して楽しく笑い合ったのでした。

それから半年の月日が経った頃のことです。
男がエマに絵本を読み聴かせたあとに、エマは突然男に向かって「パッパ」と呼びかけました。
悲しいことに、エマが初めて口にした言葉が男の名前ではなく、その言葉だったのです。
エマがその意味をわかって言っているのかは定かではありませんが、男はエマに向かって優しく言い聴かせました。
「エマ、残念ながら、わたしは貴女のパッパ(父親)ではないのです」
しかしエマは不思議そうな顔を男に向けたまま、また「パッパ」と今度は嬉しそうに呼びました。
男はすこし深刻な顔をして「わたしのことはどうかゾアと呼んでください」とエマに言いました。
それでもエマは楽しそうに小さな身体を男の膝の上で揺らしながら「パッパ、パッパ、パッパ」と何度と繰り返し呼ぶのでした。
男はきっと父親という意味をわからないで発音が面白くてエマは言っているのだと想いました。
「いまはまだ貴女はちいさいから、貴女のパッパでいてあげましょう」
そう微笑んで言ったあとに、「でもいつの日かわたしは貴女の父親ではなくなるのです」と続け、エマを抱き締めました。

エマはそれから三年余り、男のことをパッパと呼びつづけました。
男の危惧の想いはいや増して、どうしても自分のことを名前で呼ばせなくてはならないと気は焦り、エマはまだ7つほどの幼な子でしたが、エマに”本当”のことを打ち明ける決意をしました。
エマはちょうどそのとき、日が傾いたお部屋のなかでお人形遊びをしていたので、男はエマの傍に座って落ち着いた声でゆっくりと話しだしました。
「エマ、今からわたしの言うことを良く聴いてください。今から貴女に、わたしは本当のことを言います。貴女とわたしは、人間ではありません。一人の若い博士が作った人造人間なのです。つまり、人間に創られた存在だということです。他の人間たちは皆、神が創った存在です。しかしわたしと貴女を”生きた”存在にしたのは、他の誰でもない一人の人間なのです。貴女はわたしと違って、人間のように年を取って身体は変化を伴いますが、わたしはまったく30年ほど前から姿形が変わってはいません。貴女はわたしよりも”人間らしい”のです。それでも、貴女は人間と同じように生きてゆくことはできません。何故なら・・・・・・貴女とわたしは、元は死んだ人間だからです。死んだ人間に、博士が新しい魂を入れてくださったのです。この世に、わたしと貴女のような存在はどこにもいないでしょう。貴女は、人間と仲良くしてはなりません。人間は、わたしたちが死んだ人間からできていることを見抜いてしまえば、酷いことをするのです。ですからわたしたちは決して人間に近づいてはならないのです。貴女を学校に行かせて学ばせないのもその為です。貴女とわたしは、ずっとずっと二人で生きてゆかなくてはなりません。わたしは貴女の父親の”まま”でいるつもりはなく、わたしは貴女の夫として存在しているのです。それは貴女の生まれるまえから決まっていることなのです」
エマはおとなしく神妙な顔をして静かに聴いていましたが、突然、長く黒い睫毛の瞼をぱちぱちと瞬かせたかと想うと、たっぷりと涙を目縁(まぶち)に浮かべて声を放った瞬間に、ぽろぽろと真珠のように涙を零しました。
「エマはもう、パッパと呼んじゃいけないの?」
男は自分が生まれたときから大人だったからでしょうか、エマがこれほどまでに自分に父親を求めることが理解できませんでした。
だからエマに向かって、「エマにパッパは存在しないのです」とはっきりと応えましたが、言い終わったあとに、エマがあんまり悲しそうに泣くものですから、エマが不憫でならなくなりました。
男はそれから、三日間、一人で遊ぶエマを影から眺めながら考えました。
エマの為に、あと三年間、あと三年の間だけ、エマの父親でいてあげようと男は決心して、エマに自分のことをパッパと呼ぶことを許しました。
喜んではしゃぐエマを強く抱き締めると、エマは逃れようと身体を捩りながらも「パッパ、パッパ、パッパ」と言って笑いました。
エマが10歳ほどになったときにはきっと、自分を父親ではなく、一人の男として見てくれるようになるだろうと、男はエマを信じることにしました。

やがて三年の月日が流れ、エマが10歳頃の少女になると、男は三年前の約束をエマに想い起こさせるためにエマの遊んでいるお庭へと歩いてゆきました。
広いお庭の樹に囲まれた狭い小道を歩いていると、散った枯葉のなかに小さな白い花が咲いているのを男は見つけました。
おや、こんな季節に春の花が咲いていると男はその花を見つめ、その白いちいさな顔を覗かせる花の姿がエマの愛らしさに重なったものですから、男はその花を摘むと手の平のなかに隠してエマにプレゼントするときっと喜ぶだろうと想いました。
男は樹の木陰に座ってお絵かきをしているエマを見つけました。
そっと近寄ってそばに腰を下ろすとエマが男を見上げて微笑みかけました。
男も微笑み返し、エマが描いていた絵を覗き込みました。
そこには真ん中に小さな女の子が手を繋いでいる両端には男の人と女の人が描かれ、みな嬉しそうに笑っている絵でした。
男は一瞬にして、血の気が引くほどの悲しみを覚えました。
それでも落ち着いてエマにそれぞれの人物について尋ねました。
まず顔から口がはみ出すほど嬉しそうに大きな口で笑っている女の子を指差し、エマに「これは誰ですか?」と尋ねました。
すると予想していた通りに「エマ」、と返事が帰ってきました。
次には、エマの左手と繋いでいる男に指差し尋ねました。
「これは誰ですか?」
エマは男を見上げることなく俯いたまま「パッパ」とだけ答えました。
男は指していた指を、エマを通り過ごして今度はエマの右手を繋ぐ女を指して尋ねました。
「では、これは誰ですか?」
するとエマは俯いていた顔を上げて、半ば男を責めるような顔と声で応えました。
「マム」
男は青褪めた顔でエマに尋ねました。
「いったい、エマのマム(母親)がどこにいるのですか?」
エマはまた深く俯いてしまうと今度は何も答えませんでした。
男は気を取り直してエマを抱き上げて膝に乗せると優しく抱き締め、「わたしの愛するエマ」と言いました。
「わたしの愛するエマ、貴女は三年前のわたしとの大事な約束を憶えていますか?」
エマはまだふてくされた顔をしながら俯き、首を横に振りました。
男はエマの髪を撫でながら言いました。
「わたしの可愛いちいさな花嫁、エマ、わたしは今日から、貴女の夫となるのです。ですから今日からはどうか、わたしのことを名前で呼んでください」
エマは眉間に皺を寄せて、訴えかけるような眼を男に向けながら見詰めました。
男が悲しい眼で見詰め返すと、エマの視線はだんだんと力をなくしてゆき、男の胸の辺りをぼんやりと見詰めていました。
男は先程、無意識に胸ポケットに挿したままの白い花を想いだし、そのちいさな花をエマの黒髪に結んであげました。
そしてエマに向かって、「なんて愛らしい花嫁でしょう。明日は花をたくさん買ってきて、大きな花冠を作ってあげます」と言いました。
エマは男が結んであげた花を無造作に左手で掴みとってしまうと、その花を地面に投げつけました。
そのとき突風が吹いて、小さな花は風に飛ばされてどこかへ行ってしまいました。
男はエマまでどこかへ行ってしまわないようにとしっかりとエマの手を握り締めていましたが、エマは無理やりその手をほどいて駆けて行こうとしたものですから、男はエマを呼びとめようと後ろから追って名を呼びました。
しかしエマはそのまま走ってって、庭の雑木の陰に隠れて見えなくなってしまいました。
男は気づかず水溜りのなかに足をつけていたのでその足を上げると、そこにはへし折れて花びらのほとんど散ったさっきの白い花が泥と枯葉にまみれてあるのを見つけ、男は一層悲しみに暮れながらじっとその無残な青白くなった花を見詰めることしかできませんでした。

エマは次の日から、男に対して大きな抵抗をあからさまに見せるようになりました。
それは男のことを、「パッパ」とは呼ばなくなった代わりに、こんどは「マム」と呼ぶようになってしまったことです。
男はエマの抵抗に酷く傷つき、エマの無垢な目をじっと見詰めて言葉を探していました。
エマに悪気がまったくないように見える以上、何をどう言えば伝わるのか、男はわからなくなってしまったのです。
まだ10歳という歳で親の愛情を求めることは仕方のないことなのだと男は自分に言い聞かせ、エマへの複雑な想いをどうにか宥めようとしました。
それでも男は、エマがなんの意図もなく自分のことをマムと呼ぶことに対して、まるで自分の悲しみがエマに伝わっていないことを知り、余計に悲しくてならなくなるのでした。
だからといって、男は未来に対する希望を手放すことはしませんでした。
何故なら、エマはまだ幼いからです。
エマの寝顔を見詰めながら男は毎晩、胸の奥が熱くなって恍惚とした感覚になる夢想をしました。
自分のことを一人の夫としてエマから愛されるという夢想です。

その年に、男はエマと一緒にお風呂に入っているときに、ほんのすこし膨らんできた小さな胸にそっと手を触れた次の日から、エマは一人でお風呂に入ると言いだしました。
男は自分でもセクシュアルな関心から触れたのかどうかさえよくわかりませんでしたが、エマが自分と一緒にお風呂に入るのを避けたがることを残念に感じながらも、恥らうエマがとても愛おしく想えるのでした。

きっと、あと6年。あと6年もの月日が経てば、エマは16歳の少女となって結婚できる年になり、自分のことを夫として見てくれるようになるはずだ。
そう男は6年後のエマに望みを託して、それまではエマに対して自分はマムの代わりになってあげようと想いました。

そうして長い年月が過ぎ去り、エマはようやく少女が同時に大人の女性として認められる16歳という年の頃になりました。
エマはこの6年間のあいだ、男のことをマムと呼んだり日によってはパッパと呼んだりしてきましたが、男を名前で呼ぶことはありませんでした。
でもこれから先は、どうしても自分の名前を呼ばせなくてはならないと男は想いました。
男はエマの作ってくれた昼食を一緒に食べ、後片付けも一緒にしたあとにいつものお庭のベンチにエマと並んで座り、本を読み聴かせました。
するといつものようにエマは眠くなって男の膝の上に頭を載せ、ベンチに横になって微睡みながら聴いています。
エマが気に入っていた一冊の本を読み終えたあと、静寂が風の音のなかに広がっていました。
男も目を瞑り、白昼夢を見ているような心地のなかで、囁きかけるように言葉を放ちました。
「わたしは今日から、貴女の父と母をやめて、貴女の夫となろうと想います」
そのとき、エマは寝言のように小さな声で返事をしました。
「・・・エマはきっと、恋をしているの」
男も少しうとうととするなか、まるで寝言のようにその言葉に返しました。
「貴女は誰に、恋をしたのでしょう」
エマはくぐもった口調で言いました。
「・・・名前も知らない男の子」
名前・・・名前も・・・・・・知らない・・・男・・・・・・。男はその瞬間、はっと目を醒まし、酷く恐れを感じてエマを激しく揺り起こしました。
エマはただでさえ青い男の顔がさらに青褪めているのを見てギョッとし、目を丸々と見開いて男の目を見詰めました。
男はエマの肩を震える両手で強く揺さぶりながら言いました。
「貴女はいったい・・・誰に、だれにいったい、恋をしたのです」
エマは男のおかしい様子にショックを受け、怒られていることに怯えながら答えました。
「し、知らない男の子・・・エマが公園で遊んでいると、いつも声をかけてきて、エマに描いた上手な絵を見せてくれるの」
男はエマの返事があんまりにも衝撃だった為、見開いた眼が閉じることも忘れ、目はだんだんと充血してきましたが、全身を震わせながらもエマの目から目を一瞬でも離すことができませんでした。
エマは男の様子に恐怖を覚え、心配になったものの、どうしたらよいか困りに困り果てて、じっと黙って男の涙さえ浮かんできた目を見詰め返すことしかできません。
こんなことになるなら、エマを自由に外へ遊びにゆかせることを許すべきではなかったと男は心の底から悔恨に苛まれました。
エマはしまいには恐ろしさと不安から涙をぽとぽとと落とし始め、ちいさく「マム」と呟いて男に抱き着きました。
しかし男は生気が果てたようにエマを抱き返すことも叶わず、エマの身体を力ずくで引き剥がすと自室まで忙然として歩いてゆき、それっきり寝台に倒れ伏せて寝込んでしまいました。
「エマにとって、わたしとは・・・・・・」日が何度暮れても、男は頭のなかで何度と朦朧としながらそう繰り返すばかりでした。
エマは男のことがとても心配でしたが、その苦痛を一時でも忘れたくていつもの公園に出向いては恋をしている男の子を待ちました。

「何の為に、わたしがいるのでしょう」
ある夜に、言いつけも護らず遅くに帰ってきたエマを起こして、男は覆いかぶさる姿勢で穏かに言いました。
エマは男の要求をずっとずっと、本当はわかっていました。
だからずっと苦しんできたのは、エマのほうだと、エマは言葉ではなく、その二つの潤った目で男に向かって訴えてきました。
「そうです。貴女はわたし以上に、苦しんできました。貴女はどうしても、わたしの妻になることを拒むのですね。でもわたしは、貴女を娘とする為に、博士に貴女を創らせたのではないのです。貴女はわたしだけを愛するわたしだけの妻として存在するようにと、ただそれだけの願いによって、この世に生まれたのです。わたしの願いなしに、貴女はどこにも存在しないのです。それに、貴女の身体の基(もと、原料)となった死体と、わたしの身体の基となった死体はまったくの赤の他人であり、決して父と娘のような関係ではなかったのです」
暗がりのなかでランプもつけずに男は怯える目つきをしたエマに向かってそう言うと、言ったあとにハッとした顔をして眼球をころころと動かせながら一点を見詰めました。
どこかきょろっとした目をしながらもひどく狼狽した様子で男は寝台から素早く身を離し、エマの部屋を出て屋敷も出てゆきました。
男は息せき切って、博士のもとを訪ねました。
そして博士に向けて、絶望した眼差しでこう言いました。
「わたしとエマを創りし神よ、あなたはまさか、まさかあなたの選んだわたしとエマの基となった死体は、父と娘であったのではないですか・・・?」
すると博士は静かに頷き、深い息を吐いたあとに答えました。
「愛する我が創造物のゾアよ、どうか赦してくれ。何故ならおまえと彼女の基となる死体は、他にどこにも存在しなかったからである。おまえたちの基となった父と娘は、共にある日不幸に死んで、誰もその死には気づかなかった。しかしわたしが、生きた存在として蘇えらせる為に、何年と保存していたのだ」
男はそれを聞いた途端、がくっと膝から崩れ落ち、床に手をついて項垂れました。
「あなたは一体、わたしと彼女に”何の”実験を望んでいるのか。わたしの望みを、あなたは聴いて、わたしの為に彼女を創ってくださったのではないのですか。エマは苦しみ、わたしも苦しく、他に遣り場が無く、心が痛くてなりません。あなたの望みどおりに、わたしたちは生きているのでしょうか。もし、あなたの望みどおりにわたしたちが生きていないのだとしたら、それでもわたしたちは生きていなければならないのでしょうか。あなたの願いによって、わたしたちは存在しているのではないのですか。どうか望みを、わたしに生きる望みをお与えください。あなたはわたしたちの、わたしたちを愛する親ではありませんか。エマはわたしを、夫として愛することができないのです。あなたは仰いました。彼女はわたしよりも人間らしい存在となると。では人間らしさの不十分なわたしは、この世界でどのように生きてゆけばいいのですか。彼女は人間のように歳を取り、人間のようにその感性は、あまりに複雑です。わたしはいつまで経ってもまるで赤子か死者のように成長することができないのです。あなたきっと、心のどこかで想っているのです。わたしは”失敗”であり、”不出来”であると。何故ならわたしは、もはや生きる望みを、すべて喪ってしまったのですから。あなたの希望は、失敗であったということです。あなたの願いは不出来であり、不十分であったのです。しかしわたしは、最後にはあなたの望みどおりになりましょう。あなたの実験物は、失敗に終わった為、存在している必要など、どこにもありはしないのです。わかりますか。あなたの望みとは、きっとエマの望みと同じものであるのです。生きていて、わたしがどのように人間から離れてゆくのか、あなたには見えるでしょう。あなたはわたしの願いを叶える存在です。それ以外に、あなたは何者でもありません。わたしを存在させることのできたあなたは、わたしを”もと”に戻すことが、できないはずはありません。エマが最も求める存在は、わたしではない。それだけの理由で、わたしはこの世界に、いる必要など、ないとあなたに最後に願います。これが今あなたの目のまえにある、あなたのわたしに対する一番の望みです。我が主よ、あなたの望みによって、わたしのすべてを喪わせてください」
男は床を見詰めながらそう振り絞った声で言い終わると、ちょうど斬首刑を待つ罪人のようにその首を前に突き出して、両手を胸の上で祈りを捧げるように組みました。
博士はしばらくすると男の頭に右の手を載せ、男の願いを聴き入れました。
男はそのすべてを喪われるまで、愛するエマの顔が見えました。
エマは何故か、いつまでも男に向かって微笑みかけているのです。
すべてを喪われた男のなかで、エマは男の名を呼び、こう囁きかけるのです。
「わたしのたった一人の愛する夫。あなた以外に、わたしは存在しない」

「わたしのたった一人の愛する妻。あなた以外に、わたしは存在しない」
それが男の最期の言葉だったと、博士がエマに告げると、エマはその場にくずおれ、声をあげて泣きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Ricky Eat Acid - because

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Happy Halloween

今日は、待ちに待ったハッピーハロウィンパーティーだ。
ボクはこの日を、どれだけ、どんだけ、待ち侘びたことか。
きっとボクのこの、うきうき感、わくわく感は誰にも想像だに出来ないに違いあるまい。
何故なら、ボクはハロウィンパーティーというものに、行った例(ためし)がこれまで一度たりともありはしないのだからね。
ボクの初めての経験、きっとその体験は、ボクの想像を遥かに超えることと願っている。
ボクは、散らかったままの部屋に置いていたのでくっちゃくっちゃになってしまった”Happy ハロウィンパーティー”と題されたチラシを、椅子に座って膝の上に置き、じっと眺めた。


対象:3歳~小学6年生
参加費:500円

と書かれてある。
良かった。年齢制限は、ぎりぎりイケてる。
ボクは、今年で36歳だから、なんとか、なんとか、なんとかアレして、アレとコレとタレとかしたら、イケるだろう。たぶん。
だって、ハロウィンパーティーと言えば、そう、仮装パーティーである。
みんなアホみたいな、被りもんとか、けったいな着ぐるみとか、恐ろしい仮面(覆面、マスク)などをして家を出るパーティーだと言うではないか。
ボクはそれを、利用しない手立てはないであろう。
それを利用せずして、なにを利用して、ボクはこの10月を越したらええんだ。
苦役の塊みたいなこの恐怖の年末に近づく十月を。
えっ?もう十月?ま、まさか・・・なんでこんな時が経つの早いかって?そらボクが、家にずっといてるからなの?教えてジャーニー。ジャーニーってどこの誰ですか?はい?hey!
そんな憂鬱なことを考えるのはもうよそうぜ。もうすぐハッピーなハローウィンパーティーなのだから。

そして、遣って参りました。待ちに待った、ハッピーハロウィンパーティーの日が。
時間は、AM11:00~ あと一時間後だ!急げや急げ、ぼくはシャワーをさっと浴び、裸の上に、でっかくて白い大きなシーツで作った衣服をすっぽりと頭から被った。
これでどこからどう見ても、おばけの格好の仮装をした、小学6年生の少女に見えるに違いあるまい。
何故ならば、外から見えるボクのこの、肉体という被り物は、穴を二つ開けた、目の部分、ただそこだけなのだから!
とにかくボクは、時間が迫っていたので、産まれたままの姿に白いシーツを一枚被っただけの格好で、何も持たず、外へ走り出た。
勿論、ノーブラだから(ってかボクは胸が小さいためいつもノーブラだが)、乳首が、36歳の熟女の乳首の感じに透けて見えてたら、そらヤバイので、ボクは思い切り猫背になって、絶対に乳首が見つからないようにと意識して、ボクは十字路を駆け抜けた。
一瞬、突風がやってきて、あたかもスカートが舞い上がるマリリン・モンローの如くになりかけたが、あのシーンは「七年目の浮気」という1955年の恋愛コメディ映画のワンシーンらしいが、ボクとしたことが!まだ観られていなかった為に、そのシーンを真似できなくて、ひっじょおに残念でならなかった。
この白い被り物のシーツが舞い上がってしまっては、ポリコオを呼ばれて、職務質問されるか、もしくは下手したら露出狂者と誤解されて、留置所送りなんてことになるやも知れず、そんなこととなってはボクの楽しみでハッピーなハロウィンパーティーに参加して、Happy Halloween!!とそこらかしこで叫んで讃歌できないではないか。
そんなこととなって溜まるかあっとボクは全身でシーツが舞い上がるのをくるくると駒のように回りながら押さえつけて回避した。
そしてまたもや同じような突風によってシーツが舞い上がることを防ぐため、ボクはそのままくるくるとシーツを押さえて回りながらHappy ハロウィンパーティーが行なわれる最寄り駅すぐ近くの”ジャック英会話教室”の前にやっと辿り着いた。
窓辺の棚には、たくさんのカボチャやおばけやコウモリなどのハロウィンの飾付けがあったが、その奥にはもっと華やかな天井から釣り下がったジャック・オー・ランタンや、髑髏(どくろ)や案山子(かかし)のおもちゃやゴス(goth)チックなお城の飾りが見えたので、ボクの胸は、それはそれはときめいたことだ。
ボクは胸に手を当てて、ドキドキワクワクしながら、英会話教室のドアを開けた。
チャリラリランランラーンみたいなアンティークなドアベルの音が鳴った。
まるでボクがこの空間に現れたことを待ち望んでいて、それを天使が祝福しているかのような音だったのでボクの胸はそれはそれは喜びに沸き立った。
ボクのなかに、それまであった、もしかしたら年齢制限でばれて、帰らされるかもしれんばい。という不安は消え去って、ボクの心はこれから巻き起こる愉快で幸せな出来事の数々に想いを馳せては、その場に黙って立ちすくんでいた。
ここで待っていたらば、きっと誰かがやってきて、なんかゆうてくれるに違いないと想ったからである。
しかし十分近く待っていたが、誰もまだやってはこなかった。
ボクは辛抱が切れて、退屈だったので教室のなかを回って、回ってと言ってもくるくると先ほどのように回転したのではなく、この空間内を見て回った。
ボクはテーブルの上に置かれてある馬鹿でかいパンプキンのジャック・オー・ランタンの器用にくり抜かれた顔を近づいて眺めていた。
そのときである。
教室のなかが突如、薄暗くなった。ライトが全て落ちたようである。
そして次の瞬間、ドアを開けて、ものすごい勢いで声をあげてはしゃぎながら十何人かの子供たちが走って教室内に入ってきた。
みな面白くて愉快で可愛らしい仮装をしているから、顔もわからない子達ばかりだった。
ボクは互いに顔が見えないものの、すこしく緊張した。
ボクだけが、きっとこのなかで子供でないからだ。
でもボクは大人だと気(け)取られたらまずいので、子供たちと一緒になってこのロリ声を生かして、子供のような声を出してはしゃぎ回った。
どうやらボクのことを感づいている人間はここにはまだいないようだと見受けられたのでボクはほっとした。
ボクは緊張がほどけたところに、尿意が気になったので、トイレがどこにあるかを探した。
この部屋を抜けるドアを開けると、そこには狭い廊下があり、廊下にはいくつかのドアがあった。
二つ目のドアに”washroom”と表示されてあったのでそのドアを開けようとしたそのとき、ちょうどドアが開いてなかから人が出てきた。
大きな狼のような頭だけの被り物を被って黒いスーツを着こなした背の高い人間であった。
狼は視界が悪いからか、大きな頭を振って振り向いたため、その突き出た鼻の先がボクの鼻先をかすめ、ボクは勢いよく退こうとしたために滑って尻餅を床に着いた。
危ないことに、もう少しでシーツが捲(まく)れてボクの熟女的な生々しい生脚が露わになる寸前でボクはひっしと押さえ込んだので多分相手に見られることはなかったはずである。
相手はさすが英会話教室に来るだけの人間である。
完璧そうな英語でボクに手を差し出しながら狼のその口から申し訳なさそうな言い方で「I’m terribly sorry(誠に申し訳ない)」と言った。
口ではそう言ってはいるが、狼の被り物を外せば笑いながら言ってるやも知れず、ボクはひどくムカッと来て、つい口から言葉が勝手に外に出てしまった。
「もうすこしで、ボクは鼻の骨を折るところだった!」
そんな言葉がつい出てしまったのも、この狼の人間が男性であったことがわかったからであろう。
ボクは自分でここにやって来ておきながら、英語がペラペラだとかの、インテリな男には無性に妬ましさから来るムカつく想いを普段から抱えて生きているからである。
しかし言った瞬間に、ボクはひどく後悔した。
一つは大袈裟すぎる言い分であったのは確かだし、この口の利き方が大人だとばれてしまうのではないかと危ぶんだからだ。
でも相手に対してムカついている想いは変わらないし、言ったことにスッキリとしたのもあって、ボクは差しだされた手をスルーして一人で立ち上がってから無言で相手をよけてwashroomのなかに入ろうとした。
すると相手の狼男が後ろから、「あの、ちょっと待ってください」と穏かな声で言ったので、ボクは一体なんなんだという気持ちで振り返って相手の狼の顔を正面から見た。
狼は口を動かさずに、「Happy Halloween」とだけ言った。
ボクはなんでトイレに行くのを拒まれてまでこの言葉を相手から掛けられなくてはならなかったのかが全くわからなかったが、これに無視すると後々面倒なことになる気がしたので、ボクも眼も笑わずに相手に向かって、口も極力動かさぬようにして、「Happy Halloween」とだけぼそっと言って返した。
相手は微笑むこともせず(被り物だからなかで微笑んでいてもわからないため)、黙って立ちすくんでいたので、ボクも黙ってwashroomのドアを開けてなかに入った。
用を足し終わって、スッキリしてwashroomの外へ出た。
先ほどの狼男が、何やらわざとらしく、廊下の壁の飾り付けを行なっていた。
そしてボクに気づくと、恭(うやうや)しくも頭を下げたあとに近づいてきてこう言った。
「キミと会うのは多分初めてですね?身長が大きいから、6年生でしょうか?」
ボクはさっきの偉そうな態度を改め、もじもじと身体をくねらせて可愛い6年生の少女を装いながら答えた。
「うん、ボク、小学6年生。あ、ボク、って言ってるけどぉ、ボク、女子なんだぁ。ところで、あなたは誰ですか?」
狼男はまたもや手を差し伸べながら言った。
「当たりましたね。はじめまして。わたしはこの英会話教室で英会話の先生をやっているジャック・ザドクという名前の者です。英会話に興味がありますか?」
ボクはそれを聞いたとたん、しまったあっと心内で叫んだ。
よりにもよって、ハロウィンパーティーの主催者であるだろうこの英会話教室の先生に向かって、あのような牙を剥いてしまったのであった。
ボクは無邪気に微笑む顔を作って、相手の手をシーツ越しに握って言った。
「はじめまして。先生だったんだね。さっきはちょっと言い過ぎてしまって、どうもアイムソーリィー。ボクは英会話ぜんぜん駄目だけど、興味はあるよ!」
ボクの手は緊張で汗ばんでいたが、何故か相手は握り締めたまま話し出した。
「いえいえわたしのほうが本当にごめんなさい。どうもこの狼の頭が、視界がすこし悪くて、キミがいることに全く気づけませんでした。危ないので、あとでもう外そうかと悩んでいるところです。英会話に興味があるのはとても良いことですね。今なら秋の入会キャンペーンを実施していて、10,000円の入会金を全額免除と、それから本年度の年会費6,500円も全額免除で無料となっていますから、もしこの教室に入会したいなら、今月の末までにわたしにお電話でもいいので、伝えてください。その時に詳しくお話しますから」
ボクは英会話教室に入会する気などさらさらなかったが、好印象を与えておけば、何かと有利だと想ったので、微笑んで返した。
「ボク、英語苦手だけど、先生みたいな優しそうな人が教えてくれたら、覚えられるかもしれない!今日帰ったら、うちのママに相談してみる!」
「今日は一人でここへ来たのですか?」
「そうだよ。友達や兄弟も来たそうだったけど、ちょっと他に用事があったから」
「そうですか、一人でよくぞ来てくれましたね。わたしはとても嬉しいです。Happy Halloween!!」
「Happy Halloween!!」
二人ではははっと笑ってボクはそのあと、彼と一緒に廊下の枯葉リースの飾り付けを手伝った。
こんなことをしにここへやってきたわけじゃないので実に面倒だったが、ここで面倒な手伝いも快く引き受ける心優しく気立ての良い少女を演じてさえいれば、後々に待ち受ける可能性のある成人だとばれて無言の軽蔑と侮蔑と差別的な眼を向けられる未来の責務を大幅に免除してもらえるやも知れないので、ボクは嫌々ながらも甲斐甲斐しくこれを狼ジャック先生と一緒に他愛(たわい)のない会話をしながら遣り通した。
そしてすべての装飾を終えると、ボクと先生は子供たちのいる部屋へと戻った。

覆面の顔の見えない子供たちと一緒に遊ぶパーティーは、いつまでも続くような気がした。
でもボクの当てたビンゴゲームの景品が何故か、封を開けたら赤ワインだった・・・・・・
ジャック先生に手渡された景品だ。
もしかして、先生はボクが成人であることに気づいて、お酒をボクにプレゼントした・・・・・・?
ボクはお酒が大好きなので、こんなに楽しいパーティーに、お酒が無くてどうする?という想いをお酒切れなくなって、じゃない・・・押さえ切れなくなって、ボクはこっそりパーティーの部屋を抜けて、違う部屋に行って、一人で瓶のまま赤ワインを飲んだ・・・・・・

それにしてもこの部屋は、なんてすっきりとした何にも無い、テーブルが一つあるだけの部屋だ。
使われていない部屋なのだろうか。
まぁそんなこと、なんだっていいけれど。

ボクはお酒を飲みすぎて、冷たく白い床に横になった。

あの部屋から、子供たちとジャック先生の楽しそうな遊ぶ声が聴こえる。
あの先生、一体どんな顔をしているんだろう?
声はまぁ、すっごくタイプだけども・・・・・・

 

 


ジャック先生の声で、ボクは目が醒めた。
どうやらあのまま、眠ってしまったようだ・・・・・・

 

 


もう子供たちは、みんな帰ってしまいました。
この教室には、今はわたしとあなたしかいません。

ジャック先生?とても暗い。灯りをつけて。

ありがとう。明るいけど、どうして先生の顔のなかに灯りがともっているの?

それはわたしのなかは空っぽだからですよ。

そんなはずはないよ。先生は被り物じゃなくって、人間なんだから。

それはあなたが一番よくご存知ではありませんか?

どういうこと?ボクは先生のこと、なにも知らないはずだよ。
今日会ったばかりなのだから。

今日は何の日ですか?

勿論、ハロウィンの日だよ。

では、”Trick or Treat”(トリック・オア・トリート)貴女の甘いお菓子をわたしにくれないならば、貴女に悪さをしますよ。

生憎(あいにく)、ボクは今なんにも持ってないんだ。ごめんなさい。

では貴女にわたしは悪さをします。

それはやめてよ。どうか免除して欲しい。英会話教室に入室するから。

では免除をしますから、貴女の甘いお菓子をわたしにください。

だから何も持ってないんだ。急いで来ちゃって、忘れてきちゃったんだよ・・・

貴女は今、ちゃんと甘いお菓子を持っています。それをわたしにください。

甘いお菓子って、いったいなんのこと?

貴女のその被り物の下にあるものです。

許してよ。本当に何も持ってこなかったんだから。

貴女はわたしの一番欲しい甘いお菓子をちゃんと持っているのです。
ですから、その被り物を剥がしてください。

これは・・・剥がせないよ。

何故ですか?

何故って・・・見られたくないから。

わたしに?

そうだよ。

でもそれを剥がさないなら、わたしはあなたに悪いことをしますよ。

悪いことって一体どんなこと?

貴女のまだ、行ったことのない場所に、貴女を連れてゆきますよ。

そこはどんなところ?

知ればきっと、貴女は行きたくないと言うでしょう。

キミは行ったことがあるの?

わたしは夢で、行ったことがあります。

どんなところだった?

貴女が知るなら、きっと行きたくないと貴女は言うでしょう。

そんなに恐ろしいところなの?

恐ろしいかどうかは、貴女が行ってみてから決めることです。
わたしが決めることではありません。

いいから教えてよ。そこはどこにあるの?

では一つお教えします。そこは、死者と生者の、境目の世界です。

境目って・・・一体どんなところなんだろう?想像するのも難しいな。
そこに行くってことは、死んでも生きてもいないの?

そうです。死ぬことも生きることも、赦されません。

苦しいところなの?

苦しいかどうかは、貴女が行ってみてから決めることです。
わたしが決められることではありません。

キミが夢で行ってみたとき、苦しかったかどうかを訊いてるんだよ。

わたしはとても苦しかったです。

どんな風に?どうして?

貴女がそこにいなかったから。どんな風に・・・言い表すのはとても難しいものです。

ボクがそこにいないって、当然じゃないか?ボクとキミは今日出会ったばかりなんだから。

そうでしょうか。貴女がその被り物を剥がせば、わかることです。

一体どういうことなのか、わからないよ・・・。他に選択肢は無いの?

では貴女の為に、他にもう一つ、最後の選択肢をあげましょう。
三つ目の選択肢、それは、わたしは貴女を壊してしまおうと想います。

壊す・・・・・・?そんな恐ろしいことを言わないでよ。ボクはモノじゃないんだから。

そうですか。では二つの選択肢から、貴女は選んでください。

ただのハロウィンのお遊びでしょう?なんでそんな深刻な選択肢しかないの?

深刻なお遊びは、お嫌いですか。

好きじゃないよ。さっきからすこし、吐き気も感じている。飲み物を飲みすぎたからかもしれないけれど・・・

貴女はどうか、その被り物を剥がしてもらえませんか。わたしはもうすでに、あなたの中身を知っているのです。

えっ、そうなの・・・?ばれちゃってたか、やっぱし・・・

はい。勿論です。貴女がわたしを騙すなど、できるはずもありません。

ごめんなさい・・・。素直に謝罪するよ。でもふざけてたわけじゃなくて、ボクは真剣にこのパーティーに参加したくって・・・

謝罪は必要ありません。しかし貴女は、どうかわたしの前でその被り物をすっかりと剥がして、貴女の甘いお菓子をわたしにください。

甘いお菓子って、一体なんのことだか・・・

あなたがその被り物をすべてわたしの前で剥がしてしまえば、わたしは貴女の甘いお菓子を食べることができるのです。

もし、嫌だって言ったら?

仕方がありません。死者と生者の境界に、わたしは貴女を連れ去ります。

それも嫌だって言ったら?

わたしはあなたを壊してしまうしかありません。

なんて殺生な選択肢だろう・・・それじゃぁ・・・着替えを持ってきてもらえないかな?ボクはこの因果な被り物を剥がして、キミの用意した着替えに着替えるよ。それでいい?

貴女の着替える衣など、どこにもありません。

キミは本当にボクを怒ってるんだね。キミを騙してしまったことは、本当に申し訳ないと想ってるよ・・・
人を騙すのはやっぱり良くないよね。心から反省しているよ。どうか許して欲しい。入会して、入会金も年会費もちゃんと払うからさ。

わたしは貴女を赦します。その代わり、その被り物を、わたしの前で脱ぎ払って、わたしに本当の貴女を見せてください。

でも・・・この下・・・この際もう言っちゃうけど、何にも着てないんだ・・・だから脱ぐことなんてできないよ。

だからわたしに見せてください。何も着ていない貴女を。

そんなこと・・・できないよ・・・まだ結婚もしていないのに。

わたしと結婚すれば良いことです。

キミのこと、まだなにも知らないよ。

わたしは貴女のことを知っているのです。

ボクがこの被り物をキミの前で脱いだら、それだけで本当に許してくれるの?

そして貴女の甘いお菓子をわたしにくれるのならば。

もういいでしょう?甘いお菓子って、なんなのか、ボクに教えて。

貴女の最も良いもの、”Souling”(ソウリング)、甘い甘いソウルケーキのことです。

Soul(ソウル)?ソウルって、魂のソウルのこと?

そうです。貴女の甘い魂を、どうかわたしに食べさせてください。

ボクの魂をキミに食べさせたら・・・ボクは一体どうなってしまうの?

わたしと貴女は、一つになるでしょう。

何故?何故キミはボクと一つになりたいの?

何故でしょう。貴女が被り物を脱ぐなら、わかるはずです。

いったい・・・・・・キミは誰なの?キミこそ、その薄気味悪い蕪(カブ)の、被り物を脱いでボクに顔を見せてよ。

わたしの中身はからだと言ったはずです。

それじゃぁ、からのキミを見せてよ。キミが見せてくれるなら、ボクも脱ぐから。

本当ですか。

うん、もう疲れちゃったんだ。この遊び。そろそろ終わりにして帰りたい。

ではわたしは、この被り物を脱いで、貴女に本当のわたしをお見せします。

うん、ありがとう。ものすごくドキドキする。

 

ジャック先生は、白い蕪の頭の被り物を両手でゆっくりと持ち上げ、その頭を外し、外した頭を左手にあったテーブルの上に置いた。

 

キミは・・・キミは・・・まさか、そんなはずは・・・
だってキミは・・・あの日、ボクが、殺したはずなのに・・・・・・

わたしは一体誰でしょう。

ボクはキミを殺したはずなのに・・・・・・あの日ちゃんと、手術で・・・

わたしは誰ですか?

キミはボクが、あの日、あのハロウィンの日に、堕ろしたはずだよ・・・

もう何年前のことでしょう?

もう20年も前のことだよ。

20年。二十年間、わたしはここにいたのです。ママ。

ここって・・・・・・どこ・・・?

貴女の夢のなかです。

夢?ここはボクが今見ている夢?

そうです。

なんだ、夢なのか・・・良かった・・・。

さあ約束です。ママ。わたしの前で、その被り物を剥がしてください。

わかったよ。夢なんだから、別になんてことないよ。

貴女の甘いお菓子をわたしに食べさせてくれますね?ママ。

いいよ。だって夢なんだもの。どうにでもなるよ。

ママ。何故わたしを産んではくれなかったのですか。

仕方がなかったんだよ・・・・・・お金も無かったし、相手は行方不明になったし、君を産んで育てる自信も全く無かった。ボクはまだ16歳とかで・・・・・・

それは本当に気の毒なことです。たったそれだけの理由で貴女はわたしを殺したのです。
わたしの頭は、貴女以外の人間の手によって、引き千切られ、わたしは殺されたのです。

一体ボクに何をして欲しいの?でもここは夢のなかだよ。夢の世界で、キミは一体ボクに何を望むの?

わたしは貴女と一つになりたい。もともと貴女とわたしは一つだったのです。そこへ戻りたいのです。

夢の世界でも、満足なの?

たとえ夢のなかでも、わたしは満たされたいのです。たった一人の、愛する貴女と、一つに戻りたいのです。

わかったよ・・・・・・ボクのすべてをキミにあげるよ。

本当ですね?

本当だよ。

ありがとう。ママ。では、その被り物を、わたしの前で脱いでください。

わかった。

 

ボクは白いシーツで自ら作ったこの被り物を彼の前ですっかり脱いで、そのシーツを、右手の床の上に置いた。

黒いスーツを着た彼はわたしに近づき、跪いてわたしの脣(くち)にそっと脣付けした。
彼の青い眼から、涙が一粒、わたしの頬の上に落ちた。
棺のなかで眠っている、わたしの頬の上に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Ricky Eat Acid - Sun not low on my cheek, she's eating my bones

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡霊

4歳のわたしは、44歳の母の死体を見詰めていた。
そのときわたしは、母に取り込まれた。
母は死んでもわたしを離さなかった。
そのときわたしは、母を取り込んだ。
母は亡霊になったのではなく、母は生きて、わたしが亡霊となった。
母はわたしを生きている。
わたしの生は、母のものであり、母の死は、わたしのものとなった。
わたしは母を生きている。
わたしは死を生きている。
4歳のわたしは、44歳の母の死を見詰めていた。
そのときわたしは、本当の自由を知っただろう。
わたしのすべては母のものであり、母のすべてはわたしのものとなった。
ここにすべてが存在している。
完全なるすべてが。
でもわたしはこれから、死からも見放された亡霊となるだろう。
それがどういうものであるのか、わたしはこれから知ってゆくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 I was staring at the dead body of my 44-year-old mother when I was four years old.
At that time I was taken in by my mother.
My mother died, but she did not let go.
At that time I took in my mother.
My mother did not become a ghost, but my mother lived and I became a ghost.
My mother is living.
My life is of my mother, and my mother's death has become mine.
I am living my mother.
I am living death.
I was staring at the death of my 44-year-old mother when I was four years old.
At that time I would have known the real freedom.
Everything is my mother's, all my mother's belongs to me.
Everything is here.
Everything is complete.
But from now on I will be a ghost disappeared from death.
I will now know what it is.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Christian Löffler - Ghost

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ѦとСноw Wхите 第16話 〈36th Birthday〉

2017年の8月4日午後5時前、Ѧ(ユス、ぼく)はぼんやりとDeerhunter(ディアハンター)の「Microcastle(マイクロキャッスル)」を聴きながら曇った不透明の磨りガラスの向こうを眺めてた。
飛行機が飛んでゆく音がする。

 

「But my escape,
would never come
でもぼくの脱出は、
決してやってこない」

 

「Would never come(決して来ないだろう)」
そうスピーカーから甘く気だるいポップソングに乗って繰り返し聴こえてくる。

時計を見ると17:00を過ぎた。
外はまだそんなに暗くなってない。
それに比してѦの部屋はとても暗い。
最近、部屋のなかはデスクライト一つしか一日中点けていないから。
天井の蛍光灯の灯りはこの目には眩しすぎる。
だんだん目が悪くなってきているのかどうかもよくわからない。

Ѧはさっきアボカドを丸侭一つ食べてお腹がいっぱいになった。
いや、一つも食べ切れなくてすこし残した。

 

声が聴こえる。
スピーカーの中から。
声が聴こえる。
Ѧの内側から。

 

Сноw Wхите「Ѧ、お誕生日おめでとう」

Ѧが目を開けると、目のまえにСноw Wхите(スノーホワイト)が微笑んで座っていた。

 

「this is the land of OAO
 ここはOAOの国」

 

そう何度もそばにある50年代のジュークボックスから音楽が流れている。
Wurlitzer 2300 Jukeboxもあるってことはここは1959年の時代か・・・
ってなんでѦはそんなことに詳しいんだっと心のなかで自分でツッコミを入れた。
それにしてもどこか廃墟じみたDiner(ダイナー、食堂車)だ。

人っ子ひとりいないじゃないか。

 

Ѧ「Сноw Wхите!ありがとう。Ѧ、また年を取っちゃった」

Сноw Wхите「Ѧが産まれてから、36年の月日が経ったのです」

Ѧ「もうそんなに経ったんだ。Сноw Wхите、いったいここはどこだろう?」

Сноw Wхите「ここはどうやら、OAO(オーエーオー)の国のようです」

Ѧ「そんなバカな、ѦはOAOになってしまったのかな、ミセス・ヘミングスではないことは確かだよ。そういうСноw Wхитеは今日はどこか顔色がいちだんと白い気がするけれど、まさかヴィクトリア朝の吸血鬼になってしまったとか、まさかのバカな、バカなのまさか?」

Сноw Wхите「わたしは実は過去の罪人のゴーストを探している無駄棺の凶悪なティーンエイジャーの少年たちに地下室に1600年間も閉じ込められていた吸血鬼だったのです」

Ѧ「そんなことだろうとは想ったけども、不滅の魂たちはやたら田舎者だったなんて、そんなあほな?」

Сноw Wхите「彼らは歳を取ったブラック山賊でもあり、1600年間も自分たちとの戦争で戦っていたのです」

Ѧ「けっこう、自分に対しても厳しい少年たちだったんだね。それで耐えられなくなって、逃げてきたの?彼らもOAOだよね?」

Сноw Wхите「耐えられませんでした。1600年間はなんとか耐えられましたが、それ以上は、しんどかったのです」

Ѧ「気持ちはわかるよ。ところでさっきからずっと気になっているのだけれども、Сноw Wхитеの膝の上に載っている袋のなかになにがいるの?動いているし、何か、か細い声で鳴いているような声が聴こえるよ」

Сноw Wхите「はい、すっかり渡しそびれてしまっていました。これを受けとってください。Ѧ、わたしからの誕生日プレゼントです。サプライズの」

Ѧ「なんてことだろう!Ѧはこんなに袋を開けるのが恐ろしいプレゼントは初めてだよ。開けてもいい?」
Сноw Wхите「勿論です。早く開けて、新鮮な空気のなかで息をさせてあげてください」

Ѧ「苦しがっているのか・・・このなかにいる奴」

 

Ѧが袋を開けると、なかにはこいつが、Ѧを見上げていた。

 

 

 

 

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Aurora World Taddle Toes Krakers Octopus Plush
by Aurora
Link: http://a.co/eAo8nPx

 


Ѧ「このOctopusは!Ѧが欲しくてAmazonの欲しいモノリストに入れていたやつじゃないか!ピンタレストにも貼ったやつだ。Сноw Wхите、ѦのPinterestを観たの?」

Сноw Wхите「わたしはいつも覗いています。でもѦのPinterestを覗かなくてもわたしはѦとテレパシーで繋がっているので、Ѧの欲しいモノはすべて把握しているのです」

Ѧ「Wow!Ѧはとても嬉しいよ!だってこいつ、ずっと観ているとどこかСноw Wхитеに想えてくるから・・・」

Сноw Wхите「Snow deep blue boy(スノーディープブルー坊や)と呼んで可愛がってあげてください」

Ѧ「約してディブボって名前にしよう!」

Сноw Wхите「それはとてもその生命体にぴったりないい名前です。ディブボはѦに会いたがっていたようです」

Ѧ「そうだったのか!ディブボ!Сноw Wхитеが買って連れて来てくれなければ、1600年は会えなかったかもしれないね」

Сноw Wхите「たぶんOAOの国で手の込んだ文化と戦い続けていたことでしょう」

Ѧ「そしてぼくらと出会う未来もあったのか・・・」

 

it never stops
it never stops
it never・・・

 

音楽はずっと鳴り止まなかった、ぼくの誕生日!
36度目の・・・Birthday!

ずっと続く
ずっと・・・

ぼくらの脱出は、決して来ないだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 


Deerhunter - It Never Stops (album version)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ѦとСноw Wхите 第15話 〈架橋〉

前へ進めない。

前へ進むには、あちら側へ渡らないといけない。

あの橋を、あの橋を渡らないと前へ進めない。

Ѧ(ユス、ぼく)は一人で川のまえに立っている。

この川は、どれくらい深いのだろう。

まるで深さが見えない川だ。

Ѧの顔も映さない。透きとおってもいないし、濁ってもいない。

こんな川は見たことがない。

何故ここに、Ѧはずっとあれから立っているだろう。

あれからずっと・・・・・・Ѧはここから動けない。

何も考えないと、涙が時折り流れてくる。

Ѧはすこし、また痩せたみたいだ。

眩暈がする。川の下にも川があり、川はどこまでも川に繋がっているようだ。

彼方(あちら)側には何があるのだろう。

真っ暗で何も見えない。

前へ進まないと。あの橋を渡るのが怖い。

橋を渡るのはよそう。きっと耐えられない。

Ѧは、この川を泳いで渡ろう。

波打つような形の幾何学模様のピンクと白と黒のワンピースを着たѦは川のなかを眠るように泳いだ。

白と黒とピンク、白と黒とピンク、白と黒とピンク、それらが波打っている。

それ以外、何も見えない。

白と黒と薄いピンクのすべてがѦを生き物のように絡めとった。

目を開けるとСноw Wхите(スノーホワイト)がѦを抱っこして川に胸まで浸かっていた。

Сноw Wхите「Ѧ、泳いで渡るのはよしましょう。とても危険なのです。あの橋を渡りましょう」

Ѧは咄嗟に目を伏せて言いました。

Ѧ「ごめんなさい・・・・・・」

Сноw Wхитеの垂れた前髪から、滴がぽたぽたと落ちてくるのがѦには涙に想えてしかたありません。

きっと、Сноw Wхитеはつらいんだ・・・・・・。

Ѧはつらくて顔を上げられません。

Сноw Wхите「なぜѦは謝るのでしょう?わたしの望んでいることなのです。わたしは耐えることができます。それはѦの愛によって耐えることができるのです。わたしが耐えられるなら、Ѧも耐えられるはずです。Ѧを信じてください」

Ѧは悲しくて涙が溢れてきます。

Ѧにとって、本当に成し遂げたいことが、本当に苦しいことだからです。

あの橋を渡ることがつらくてならないのです。

正常な感覚で渡れるように想えないからです。

この川は何ものなのでしょう?

今、ѦとСноw Wхитеは一緒に浸かっています。

温度すら、感じられません。

ѦとСноw Wхитеは何に浸かっているのでしょう。

Сноw Wхитеは、今、人間でしょうか?

人間のようにも見えます。

優しくて悲しそうな目でѦをじっと見つめつづけています。

Сноw Wхите「Ѧ、あの橋を渡りましょう。Ѧが渡るため、わたしが架けたのです。わたしはѦと一緒にあの橋を渡ります。あなたのなかに、わたしがいるからです」

Ѧは何故だかわからないのですが、Сноw Wхитеは何も悪くないのに、Сноw Wхитеを恨んでしまう自分がいることに気づきました。

この得体の知れない川と、闇をしか映さない彼方側と、Сноw Wхитеの存在が同じものに想えてなりませんでした。

Ѧはまだ、俯いたまま返事ができずに、ただただ悲しんで泣いています。

Сноw Wхитеの目さえ、濁っているのか透きとおっているのか、どちらでもないのかわからなくなっているからでしょうか。

何かがずっとゆれ動きつづけていることだけは感じられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ѦとСноw Wхите 第14話 〈edge〉

Ѧ(ユス、ぼく)はおとといに、お姉ちゃんにちょっとした告白のメッセージを送った。

それは、こんなものだった。

 

 

こずは今日こそ、お姉ちゃんにちょっとした告白をしようと想う。
心を落ち着かせて聴いて欲しい。
 
 
 

お姉ちゃんは傷つくと想うけど、お姉ちゃんはこずのこと、ちっともわかっちゃいない。

この際言うけれども、こずはまだ、こずのせいでお父さんは死んだと想ってるし、それを信じてずっと生きてる。
こずはこずを赦されへんねん。どうしても。
こずはこずのことを愛してるけれども、
こずはこずをいつでも、起きてるあいだずっと自分をぶっ殺したいほど憎い。
一度殺しただけじゃ気が済まない。
永久に自分を殺しつづけたいくらいに憎い。
その自己憎悪というもんは、自分だけに向くもんじゃないねん。
それは必ず、他者に向く。
それが人間の普遍的心理であって、誰もがそういうもんやねん。
自分を愛してるからこその愛憎で、それが他者に向けられる。
だからこずがいつでも自分を憎みつづけているということは、同時に他者をも、すべてを憎み続けていることと同じやねん。
こずだって自分を赦したいよ。
でもそれは簡単にできるものじゃないし、それがこずの生きる人生の一番大きな試練で、必要な苦しみだとこずは自分でそう感じてるし、そういう意味ではすごくポジティブになれてきたと想ってる。
すこしずつ、すこしずつ、自分を赦していくのが人間なんちゃうかな。
それくらいこずの自分に対する憎悪は重くって、それはお父さんを本当に愛していたことの証明やから。
一番苦しめたくない人を一番苦しめてしまった後悔は、そうちょっとやそっとでなくなるもんやない。
こずにとってお父さんはお母さんでもあってん。
こずにとってたったひとりの親やった。
こずのすべてやってん。
だからお父さんが死んだ晩、本気でこずうちのマンションの四階から飛び降りてお父さんのところに行きたいと願ってん。
でもそうしたらお姉ちゃんやお兄ちゃんやしんちゃんが余計哀しむと想ったから自殺するのを想い留まることができた。
兄姉誰もおらんかったらこずはとっくに死んでる人間やで。
未だに余生を送ってるような気持ちで生きてる。
こずはお父さんが死んでから生きてる感覚というもんがほとんどないねん。
季節というもの、時間が流れているという感覚がない。
生きてるっていう実感がない。
まるで夢の中をずっとふわふわと足も地に着かずに生きてる感覚で生きてる。
そういう人を「離人症」っていうらしいねんけど、これがほんまつらい。
生きてる実感がないから人を傷つけてもどこかで平気でおれたりする。(夢の中で人を傷つけてるような感覚やから)
ずっと自暴自棄で生きてるから、すべてがヤケで、人を傷つけることで自分を傷つけて喜んでるような人間やねん。
こずはサドやけど、同時にドエムで、それも全部自分が憎いからそうなってしまった。
人を傷つけることは楽しいとさえ感じてるときもある気がする。
自分が傷つくこと、自分が苦しむことをいつも求めてるから、自分の投影(鏡)でしかない相手を苦しめることが嬉しいことになってしまうねん。
 
 
人間追い込まれてゆくほどだんだん闇が深くなっていって、それを身内に知らせることってつらいことになってくるねん。
絶対、傷つくと想うから。
こずはもう2008年から引きこもってるから今年で8年やな。
ネットの場っていうのはこずにとってほんとうの救いの場やで。
ネットでしか発することの出来ない自分の気持ちばかり持って生きてるから。
身内には言えないことばっかりでできてるのがこずという人間やねん。
 
 
そんな人間が人を傷つけない言葉っていうたら、ほとんど表面的な言葉でしかない。
核の部分に「自分(人)を傷つけたい」っていう気持ちが隠れてるわけやから。
でもわかってほしいのは、あくまで傷つけたいのは自分自身で、「他者」ではないってこと。
 
メンヘラはみんな自分と他者の境界が薄くって、他者を自分のように感じてる。
だから他者から冷たい仕打ちや酷い仕打ちを受けたとき、それは自分自身から受けたことと同じで、
自分から愛されない自分を憎んで、その自己憎悪が他者へ向かう。
 
お姉ちゃんもこんなに闇の深い妹を持ってしまってつらいと想うけど、でもこず自身は深い喜びをだんだん感じて生きてる。
苦しみが深いほど良い物語も創れるし、他者の痛みもわかるようになってくる。
 
だからあまりネガティブには捉えて欲しくない気持ちがある。
むしろこずが選んだ道をこずがちゃんと生きてることに安心して欲しい。
 
 お姉ちゃんを落ち込ませてしまったかもしれんけど、これがこずの実態で、こずのあんまり身内に知らせたくなかった”心の闇”なのです。
こずはできるだけこずの内面をすべて自分の書く物語に注ぎ込みたいと想ってる。
創作こそが昇華(カタルシス)になるものやから。

 

 

 

 

 

その夜と昨日、お姉ちゃんから返事が来てた。

それは、こういったものだった。

 

 

 

 

 

なっがw
長過ぎるわ(; ̄Д ̄)
 
 
人を傷つけるのと自分を傷つけるのは全く別にして欲しい。
自分の事やから自分をどうしようが私の勝手、と言われればそれまでやけど、人をそんな思いで傷つけるのはその人からしたら完全にとばっちりやんな。
ほんまにその人がひどい人やったらまだしも、いい人でも関係なく傷つけるやろ?それは酷過ぎる…
それってただの自己満足やん。相手からしたら災難でしかないやろ。
 
ケガさせるより心を傷つける方が酷いと思う。
多少のケガなら日にち薬で治るけど、心の傷は下手すりゃ一生残るし、その人の未来を壊したり奪ったりしてしまう事だってある。
 
勿論、大きな外傷を与えたらそれも一生もんになる事だってあるけど。
 
どっちも良くないな。けど、人間知らず知らずのうちに人を傷つけてしまってたりもするから、それに気付いて謝れるのが1番ええっちゃええ。
 
気付かず過ごしてるのもひどい話やな。私はどっちかと言うとそっちかもな…気付かんから謝りもせぇへんし、へらへら笑ってるけど何処かで誰かが傷付いてるのかも知れん、と思ったら恐ろしいわ…
 
それはそれで罪重い…。
 
出来れば人を傷つけたくない。傷つきたくもない。

 

 

 

 

Ѧはこの返事を読んで、もう、当分お姉ちゃんとは口を利きたくないと思った。

Ѧは、お姉ちゃんとお兄ちゃんから、何度も「おまえのせいでお父さんは死んだ」と言われてきた。

そのことについてѦがいまだにずっと苦しんでても、お姉ちゃんは謝る気もまったくないようだ。

Ѧのこころを深く傷つけてまだ謝りもしないのはおねえちゃんなのに、そんなおねえちゃんからѦは言われたくないと想った。

 

おねえちゃんもおにいちゃんもきっと、いまだにѦがお父さんを殺したんだって想ってるんだよ。

Ѧのことを赦してないんだ。

だからѦが未だにお父さんのことで苦しんでるっていう告白をしてもお姉ちゃんからの心配する言葉一つもなかった。

きっとѦが苦しむのは当然だって想ってるんだよ。

Ѧはこころが虚しくて哀しい。

 

Ѧは静かに泣きながらそうСноw Wхите(スノーホワイト)に訴えた。

 

 Сноw Wхите「Ѧ、Ѧのお姉さんもѦのお兄さんもѦを心から愛しています。そうでなければ、どうしてここまでѦを追いつめて苦しめる必要があったでしょう。Ѧを苦しめ哀しませつづけることはお姉さんとお兄さん自身が苦しみ哀しみつづけることなのです。苦しみたいと想っているѦをほんとうに苦しめつづけられるのはѦが心から愛する者たちです。Ѧの”苦しみたいという望み”を自分が苦しみつづけてでも叶えてくれたのがお姉さんであり、お兄さんであり、そしてѦのお父さんとお母さんです。Ѧはそれをちゃんとわかっています。だから心の底から誰をも憎んではいないのです。Ѧはほんとうに愛されています。心から彼らに感謝してください。お姉さんもお兄さんも、Ѧを傷つけつづけていることに深く傷つきながら暮らしています。それでもѦとの大切な”約束”であるため、まだ傷つけつづけなければならないのです。すべての人間が”なりたい自分”になるためにそのような約束をたくさんの人と生まれるまえにしてから生まれてくるのです。Ѧに大きな影響を与えつづける存在は誰もがѦの”ソウルメイト(魂の伴侶、仲間)”たちです。互いに苦しい試練に耐えて貢献し合おうと約束して生まれてくるのです。Ѧにとって大切な存在は必ず相手にとってもѦが大切な存在なのです。想い合っているからこそ苦しめ合うのです。だからどんなに傷つけられつづけてもѦにとってお姉さんやお兄さんがほんとうに大切な存在であることに代わりはないはずです。お姉さんはѦにほんとうに幸せになってもらいたいのです。だから人を傷つけたままでѦが苦しんで生きることがないように忠告しているのです。ѦはѦの苦しみをお姉さんに打ち明けましたが、お姉さんはすでにѦの苦しみがどれほどのものか気づいています。だからѦのことが心配でいつでも元気づけたいと想ってベジタリアンレストランに誘ったりしてくれるのです。いつ会っても、Ѧが普通の人よりはずっと元気がないことをお姉さんは気づいています。Ѧの哀しみが相当なものであることをお姉さんはわかっているのです。わかっているからこそ、Ѧはお姉さんに告白することができたのです。それに人間というものは、意識していることだけが”理解”していることではありません。人間は意識に上らなくともありとあらゆることをわかることができる存在なのです。だから人と人は深くどこまでも共感し合える存在なのです。誰もが見たい世界を見て、生きたい世界に生きています。Ѧはちゃんとお姉さんとお兄さんから”愛される世界”に生きています。それはѦがお姉さんとお兄さんを心から愛しているからです。本当に心からѦを憎んで赦さない世界に生きている存在はどこにもいません。Ѧは本当は赦されているのです。だからこそ”赦されない”世界を自ら選んでその世界に苦しみつづけて喜びを分かち合うことが許されるのです。無理に赦す必要もなければ、無理に仲良くする必要もどこにもありません。仲直りしたいと想ったときに、自然と仲直りできるものです。その”時”が来ることを焦る必要もなければ求める必要もありません。Ѧはすでにずっと、すべてを求めつづけているからです。Ѧ、すこし元気になりましたか?」

 

Ѧ「ありがとうСноw Wхите。すこし元気がでたよ。ほんとうに、大好きなんだ。お姉ちゃんのこともお兄ちゃんのことも、だから無理に仲直りする必要なんてないね。縁はどうしたって、切れないもんな」

 

Сноw Wхите「”縁”は英語で”edge(刃)”です。縁は”切られる”ものではなく、”切る”ものです」

 

Ѧ「なにを切るの?」

 

Сноw Wхите「真っ白な画用紙をエッジで好きに切るのです。なにを切りたいですか?」

 

Ѧ「Сноw Wхитеの人型を切ろう!」

 

Сноw Wхите「そしてオーブンで焼いてください。スノーホワイトマンのできあがりです」

 

Ѧ「やったぁ!こんどはぼくのエッジでスノーホワイトマンの住む可愛いおうちを作ってあげるね」

 

Сноw Wхите「待っています。Ѧの作るけっして溶けないおうちを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ѦとСноw Wхите 第13話 〈テセウスの船〉

ここはスノーミネラル星(Snow mineral)。

大きさはちょうど地球と同じサイズですが一年中雪が積もっています。

でもその雪はあたたかいときもあればつめたいときもあります。

また雪の色は真っ白のときもあれば灰色のときもあり、クリーム色のときもあります。

あるおうちに、ちいさな女の子が住んでいました。

女の子はあるとき大好きなお父さんが買ってくれたビロードの頭巾のついた赤いポンチョをいつも気に入って着ていました。おそとにでるときはいつでもその赤い頭巾をかぶっていましたのでみんなから”赤ずきんちゃん”と呼ばれていました。

ある日、すべての家事をこなしてくれる大変便利なロボット、ロボットマム(robot mom)が女の子に言いました。

「Ѧ(ユス、女の子の名前)、さきほどムーンホスピタル(Moon Hospital)から連絡がありました。Ѧのファザー(父、Father)がやっと目を覚まされたようです。Ѧの作ったケーキとワインが是非飲みたいとおっしゃっていました。さっそく昨日Ѧが作ったケーキとワインをファザーに持っていってあげてください」

Ѧはそれはそれは驚いて喜びのあまり泣いてしまいました。

なぜならѦのお父さんはもう7年間目を覚まさず、ずっと眠りつづけていたからです。

それでもѦはしょっちゅうお父さんに会いにムーンホスピタルに赴いて側で絵本を読んだり話しかけたりしていました。

Ѧはケーキとワインを持って急いでムーンホスピタルへ向かいました。

森の駅(Forest station)に着いて、そこで約30分森の列車(Forest train)内を自由に歩き回ったり座って待ちます。

Ѧはすこし歩いて木の切り株の椅子に座って休んでいました。

するとオオカミさんが近づいてきて、こう言いました。

赤ずきんちゃん。こんにちは。今日はとっても良い日ですね」

ѦはもしかしてオオカミさんはѦのお父さんが目を覚ましたことをどこかで聞きつけたのかなと想って優しそうなオオカミさんに返事しました。

「こんにちは。ありがとうオオカミさん

するとオオカミさんはもっと近づいてこう言いました。

「あなたはどこへこんなに早くに行かれるのですか?」

Ѧは、あれ?お父さんのことを知ってたんじゃなかったのか・・・と不思議に想って答えました。

「ぼくのお父さんのところへ行くんだよ」

オオカミさんは微笑んで言いました。

「そのスカートの下には何を持っているのですか?」

Ѧはあんまり急いで来たもので鞄に入れるのも忘れてスカートの下のペチコートでケーキとワインをくるんだものですからお腹が大きく膨れていたのでした。

「ケーキとワインだよ。昨日、マムと一緒に焼いたんだ。ずっと病気だったお父さんに美味しいものを食べさせて元気になってもらうんだ」

オオカミさんは喉を鳴らして言いました。

「わたしはお腹がぺこぺこで喉もとても渇いています」

Ѧは最初、見知らぬオオカミさんに自分の大事なケーキとワインをあげることがちょっと嫌だなと想いましたが、ここであげなかったらお父さんはきっとѦの親切でない心に哀しむだろうと想ったので、しかたなくケーキの三分の一とワインの三分の一をオオカミさんにあげました。

オオカミさんはとても喜んでそれをたいらげました。

そしてѦに向かって言いました。

赤ずきんちゃん。お父さんはどこにいるのですか?」

「三つの大きな樫の木駅(Three big oak tree stations)で降りたらハシバミの木(Wood of hazel)がすぐ下にあるからわかるよ」

Ѧはそう言うと早く着きたくって立ちあがってそわそわとしだしました。

そして森の列車のなかを歩きだしました。

Ѧは歩きながら、ふっと不安がよぎりました。

お父さんはѦのことをちゃんと憶えてくれているだろうか・・・・・・?

もし忘れちゃってたらどうしよう・・・・・・。

Ѧはそう想うとどんどん怖くなって俯いて歩きました。

オオカミさんはѦのそばを歩いて言いました。

赤ずきんちゃん。ご覧なさい。このあたりの花はなんて綺麗でしょう。周りを見渡してご覧なさい。小鳥たちはなんて嬉しそうにさえずっているのでしょう。あなたには聴こえませんか?森のなかのここではすべてが喜ばしいのです」

Ѧは目を上げると朝日が木と木の透き間を前後に通りぬけて花はどれも綺麗であるのを見ました。

そしてその光景をずっと見ていると不安がどこかへ行ってѦは想いました。

「そうだ、お父さんはもうずっと綺麗な花を見ていなかったのだから綺麗で生き生きした花束を見たらきっと喜ぶだろう」

Ѧはあんまり夢中で綺麗な花を摘みつづけて、一駅乗り過ごしてしまって慌てて降りてまた森の列車に乗りました。

気づくとオオカミさんの姿は消えていなくなっていました。

 

Ѧはこんどはちゃんとムーンホスピタルのそばの三つの大きな樫の木駅で降りることができました。

そして三日月の形をしたムーンホスピタルに向かって走ると、その中に入り、船の形のベッドのある部屋の前をいくつも通り過ぎながら、また怖い気持ちが湧きあがりました。でももうすぐお父さんに会える喜びも湧いてきて、そのふたつの想いが交じり合いました。

一つの部屋の前で立ち止まり、ドアをノックしました。

すると返事がなかったのでドアを開けて中へ入りました。

ものすごくドキドキして鼓動を落ち着かせることができません。

Ѧはお父さんの寝ている船の形のベッドに静かに近づいて行きました。

そこにいるお父さんの顔をそおっと覗きこんだ瞬間、Ѧはひどく驚きました。

なぜなら、そこに寝そべってѦの顔を優しく見つめ返すのはお父さんではなく、さっき会って話をしたあの”オオカミ”さんだったのです。

ももっとびっくりしたのが、そのオオカミさんが着ているのはѦのお父さんが着ていたパジャマとまったく同じパジャマだったからです。

Ѧは哀しくって悲しくって泣きました。

そのとき、オオカミさんがѦに優しく言いました。

「Ѧ、おどろかせてしまってごめんなさい。さっき会ったときに、言うべきだったのかもしれませんが、なんと言ってよいかわからなくなってしまったのです。でも信じてください。わたしはたしかに、Ѧのお父さんです」

Ѧはオオカミさんに騙されていると想って怒りが湧いてきて泣きながら言いました。

「いったいどこがѦのお父さんなの?!どこからどう見てもオオカミじゃないか!Ѧのお父さんと顔も違えば声も違うし、話し方だってぜんぜん違う。Ѧのお父さんをどこへやったの?!」

オオカミは悲しい顔をして深呼吸したあと話しだしました。

「Ѧ、いまから話すことを、どうか落ち着いて聴いてください。お父さんは、ほんとうに大切なもの以外のすべての部品が古くなってしまって、取り替えなくてはこの次元に肉体を維持させることができなくなってしまったのです。新しい部品は、どれでもお父さんに合う部品とは限りません。お父さんに合う部品をひとつひとつ、新たに作りあげてそしてお父さんの古くなった部品と交換して行ったのです。そして新しくなったお父さんがいまѦの目のまえにいるお父さんです。お父さんはѦとのすべての記憶をちゃんと持っています。そしてѦを心から愛する気持ちも変わらず持っています。それはお父さんのほんとうに大事なものなので、それだけはそのままお父さんのなかに保存されたままです。Ѧ、どうか哀しまないでください。たしかに顔も声も話し方も違ったものになってしまいましたが、それらはお父さんを構成するうえでほんとうに大切なものではなかったのです。だからそれらを新しくして、お父さんは姿形を変えてでもѦとまた一緒に暮らしたかったのです」

Ѧは涙があふれて止まりませんでした。顔も声も話し方も違うお父さんがѦのほんとうのお父さんであることがどうしても信じられなかったのです。Ѧにとってのお父さんとは、お父さんの”すべて”であったからです。

オオカミも哀しくて泣いてしまいました。

オオカミはѦはまだ幼かったので、姿形や声や話し方でお父さんをお父さんと認識していたことが強いことをわかっていました。

自分はѦを娘として愛する気持ちもѦとの大切な記憶も自分自身の記憶として持っている存在です。

でもそれだけで、Ѧのお父さんであると、Ѧに対して言いつづけることはѦにとってつらいことであるのなら、”別人”として生きることも考えていました。

オオカミは、実はѦのお父さんを”完成”させた存在でもありました。

ѦにとってのѦのお父さんの大事な古い部品すべてを飲みこんでしまったのはオオカミでした。

でもそれはѦに言わないでおこうとオオカミは想いました。

オオカミはѦの新しいお父さんを創りだした存在でしたが、その”人格”というものについて、今はまだѦに話すことができませんでした。

あまりに複雑であるし、また今Ѧに話してしまえばよりいっそう落ち込ませてしまうことがわかっていたからです。

オオカミはѦのお父さんのѦを愛する気持ちとѦとの記憶のすべてを自分で創りあげた”肉身(にくしん)”に取り込みましたが、しかしその人格(Personality、性格、気質、興味、態度、価値観など)は古い部品であったために新しく取り替えたことをѦに黙っていました。

Ѧはきっとその違いに一番に違和を感じとって哀しんでいるのかもしれません。

オオカミはѦが悲しむのは無理もないとわかっていました。

それでもオオカミ(お父さん)は、愛する幼いѦを置いて死ぬことがどうしても心残りで、オオカミとの契約で新しい姿形・声・人格を持ってѦの側で生きることを決意したのでした。

 

Ѧとオオカミ(お父さん)は、別々にはなればなれになって暮らすことになりました。

オオカミが側にいるとѦが”本当”のお父さんを恋しがって激しく泣きだしてやまなかったからです。

オオカミは、ほんとうは自分がѦへの愛着が激しいあまり、ただただѦの側にいたいがためにѦのお父さんの振りをしてѦを騙しているのではないかと感じることもありました。

オオカミは自分はѦを娘として愛しながらも同時に一人の男としての人格を持つため、Ѧをほかのどの男にも近寄らせたくはないという気持ちが芽生えて苦しみました。

 

オオカミはѦの”お父さん”ではないのでしょうか?

ほんとうに大切な部品だけは遺したはずなのです。

 

Ѧはやがて少女になると、オオカミのそのとても哀しい目がどこか、お父さんの目にそっくりであることに気づきました。