Exists or Exits

  ヨォ、久し振りじゃァねえか。
…嗚呼,なんだ、お前か。
久々に会ったってえのによぉ、そりゃネエゼ。
…それもそうだな。まあ座れよ。
言われなくとも俺は此処に座ろうと想ってたさ。
それにしても、久し振りだね。
オイオイ,お前なんだよ、そのツラ…いつにも増して…
人質に捕られたラタンの壺みてえな顔か。
そうよ…。
ハハ…それもそうさ。
何を操作した?
…ん?俺だよ…。
お前…大丈夫かよ。ところでお前、それ美味そうな奴、何飲んでんだ?
嗚呼,これか、これはブランデーとコーヒーと豆乳と沖縄の黒糖を混ぜたものさ。
お、そりゃ美味そうじゃねえかょ。一つ俺にも注文してくれよ。
良いぜ、俺が作ってやる。
なんだよこの店、客も店員もいねえのかよ。
ま、そうゆう御時世なんだろう、世も末だ。
なあお前、お前いってえいつから此処で独りで飲んでんだ?
…うん?知らんよそんなこと。おい、そんなことはどうだって良いじゃねえか。それより、お前コイツを飲め。
お、すまんね。
どうだ、イケるだろう。
お、コイツはまた、甘くてイケるじゃねえか。
HOTだろう。
HOTだ︎。☕
ははは、俺の魂はSuper freezingさ。
相当、身に沁みそうだな。まあ聴いてやろうじゃねえか、冥土の土産にもしてやろう。
なァ、オレ、おれは、聴いてくれ、俺は…。
だいじょぶか?
俺はさ、宇宙の無限性を信じている。宇宙ってやつは何処まで行こうが続いている。そんだけ広いならよ、どんなやつだろうが存在してても可笑しくねえってことなんだ。俺はあるとき考えたんだよ。例えばこういう奴がいたって、良いよなあ。
どんな奴だ?一生みずからの屁を空間に溜め込み続けて充満させていることに真の喜びを感じて自分の屁だけで呼吸して生きて行けるか命懸けで挑戦してる奴か?
そんな奴はいなくていいだろ。
じゃあどんな奴のことなんだい?
俺はこんな奴がいたら良いと想ったんだよ。40歳過ぎて独身で友人もいなくて、そいつは変わりもんだから、だれひとりにもまともに相手にされなくなって、でも若い女性アーティストに心底惚れ込んでしまうんだよ…それでひたすらに、そいつはすべてに対する情熱と悲しみを彼女に送り続けるんだ。それはそいつにとってとても切実なものだが、彼女には何も届かない。無反応で、読んでるかどうかもわからない。とうとう或日、彼女にブロック(受取拒否)されている(だろう)ことに気づくんだ。でもそれでも、そいつは長文の手紙を死ぬ迄、何十年と彼女に送り続け、彼女の発表する新しい作品を死にたくなるほどの悲しみのなかに鑑賞しては賛美し続けるんだ。そんな男が、この果てなき宇宙の何処かの、本当に目立たぬ処にいても良いな。ってね。
つまりそいつは自分の手紙が相手に届いてはいないだろうと知りながらも長ったらしくて未練たらたらな文章を書き綴って無反応の女に何十年も送り続けてるってわけか。
そうさ。
そいつ、ただのバカだろ?
バカはバカでも、❝ただの❞バカだとは想わねえな。
じゃあなんだ?❝完全なるバカ❞、〘パーフェクトバカ(Perfect Fool)〙か?
もっと凄いだろ。
どこがどう凄いってんだ?そいつ、他に遣ることねえだけなんじゃねえのか?
いや、それは違うさ。
どう違うってのさ。
そいつはさァ…つれえ(苦しい)だろ、かなりよ…。
知らねえよ、そんなこたぁ。好きでやってるんだろ?
好きも嫌いもねえよ、それだけ惚れてんだよ、その女に。
その馬鹿女にか?
馬鹿じゃねえよ、女は。
じゃ、なんだってのさ。大して売れねえ自分の作品をずっと賛美し続けてくれてきた一人のPatron男を恩も忘れて、鬱陶しさを感じた瞬間に面倒になってすかさずブロックしたんだろ?どうせよぉ。
お前さ、お前の糞くだらねえ先入観と固定観念でものを語るのはよせよ。
何、お前、怒ってんのか?
怒ってはいないさ…。
で、そいつ、だれなんだ?いるのかよ、そんなパーフェクトバカ。
いるさ。そんな哀れな男が、宇宙の端っこにね。
お前、見たのかよ。そいつを。
❝見ないで信じる者は幸いである。❞
❝ワザワイ❞だろ?
❝サイワイ❞だ。イエスもそう言っている。
ヘッ。で、そいつがどうしたんだっけ?
俺はさ、真面目な話よ、そこまで哀れで惨めったらしい馬鹿で素直な男がよ、宇宙の何処かにいるんだぜ。俺はそれを確信する。だからさ、俺だって、そいつとまったく同じような経験をしたって良いんだよな、いや、寧ろ俺はそれをしてみてえよ、それでそいつと深い悲しみをShareできるんだからね、凄く面白えし、嬉しいじゃねえか。
おい、お前そんなこと言って、ハハハッ、そいつ、お前が俯瞰して観た今のお前自身だったって堕ちだろ?ワハっ。
…違うさ…。
否定するのかよ?未来のそれを経験するお前と今のそいつと何が違うってんだ?
…そいつは俺の未来だと言いたいのか?
だってお前はまったくそいつと同じ経験がしたいんだろ?同じ経験をするにはよぉ、まったく何から何まで同じじゃねえと無理じゃねえか?
いや、俺はまったく同じ経験をしたいなんて言ってない。良く似た経験さ。
でも本当の処はまったく同じ経験をしてえんだろ?
いや…違う…!っていうか、俺はそいつのこと何もしらねえんだぜ。
だからさ、お前の想像上のパーフェクトバカな生き物だろ?
俺が想像した瞬間に、もうそいつは宇宙の何処かに存在してんだよ。
オイ、さっきから気になってたんだが、なんでずっとMarvin Gayeの「I Want You」が延々とリピートされてんだよ?この店は。
…さあね。良い想い出でもあるんだろう。
…まあ良い曲だけどよ。で、オイ、そいつ今何遣ってんだ?そのパーフェクトバカはよォ。
オレは…いやそいつ…いや、おれは…俺は今朝から,まったくツイてなかった。
なんだ、犬のうんこでも踏んだのかよ。
もっと酷いものだ。
もっと酷えもの…キリストの踏み絵でも踏んだのかよ。
…俺は、何の罪で俺は此処迄、人から嫌われて見離される存在に成り果てちまったんだなァ。
おい,キリストの踏み絵ってのは踏まれる為のものとしてそこに展覧されている。そんでその踏み絵の横にはこう書かれてあんだよ。『どうぞ御自由に御踏みください。』とな。それを踏まねえで帰るならキリストに失礼ってもんだ。人間ってのは馬鹿で正直だからよォ、踏み絵としてそこにあって、自由に踏んでも良いんだとわかると踏んで屁ェこいて帰りたくなるものなんだよ。
…。俺のこの苦しみと悲しみがキリストに背いた罰だとお前は言いたいのか?
違うってのか?キリストとはこの世に何が善で、何が悪であるのかをはっきりと示した預言者であるんだぜ?キリストはこう言ったんだよ。『わたしはこの世に平和ではなく、剣を齎すために来たのである。』剣とは破壊させる為のもの。それから、切り分ける、選別する為のものだよな?つまり、イエスはこう言いたかったのさ。俺は人間の罪の意識を破壊する為に来た。そして俺は、罪の意識のある者と、罪の意識のない者とに選別し、自分に背く方を、つまり、罪の意識に苦しんで、悲しんでばかりいるパーフェクトバカたちを永遠に滅す。とね。
いや、逆だろう。イエスは『悲しみ嘆く者は幸いである。』と言ったんだ。イエスは善良な人ほど人が罪の意識によって苦しんで嘆き続けることを知っていたからさ。そしてその苦しみ、悲しみの深さによって、人は深く悔い改めることができることを知っていたんだ。イエスが破壊させるものとは寧ろ人が罪を忘れた罪悪のない意識なのだよ。
そうなのかなぁ、俺は罪悪心というものが皆無だからなぁ。じゃあ俺は滅ぼされちまうってのかよ?
罪悪心が皆無の者は滅ぼすとだれが言ったんだ?例えば幼児は虫を踏み潰しても何とも感じていないが、何者もそれを咎めようとはしない。何故なら言っても理解できる能力がないからさ。
俺がもしその馬鹿なガキの親なら、そのツラを思い切り引っ叩くね。言ってもわからねえなら痛みで思い知らせるしかねえからなぁ。
でもそいつはなんで自分が叩かれたのか全くわからねえから泣くばかりさ。
それはしょうがねえだろう、これが因果応報というもんだとそのPerfect未満バカに教えてやんねえとな。
お前、本当にそんな親になるつもりなのか?
俺が親?いつ俺は親になれんだ?どんな女も俺の情熱が暑苦しい上に寒々しいっつって俺に嫌気が差して去ってゆくってのによォ。
確かにお前が親になるなんざ、想像できねえが…しかし人間ってもんは親になった気持ちでこの宇宙を俯瞰しなくては、結句何も見えては来んのだよ。
そうか、ソイツはすげえ。そんでお前はその見えて来たものによって今お前の罪がお前を苦しめてるんだと想ってんだな?
いや、そんなことは本当のところは想ってないさ。
そんじゃお前はなんだってそんなに延々と苦しんで悲しみ続ける人生なんだよ?
…なあ、想像してみてくれよ。俺たちは全員、Racer(レーサー)なんだよ。登ってる山の天辺が一応一つのGoalなんだ。死ぬ迄、安全運転で行く奴もいれば俺みてえに全速力で突っ走り続けるバカもいる。俺は早くゴールに着きたいんだよ。スピードを上げ続けて走るためにはそれだけのEnergyが必要だ。俺は何故だかわからねえが、死のCurve(カーブ)を曲がる前ほどエネルギーが満ちて来て燃えてくるんだ。俺はスピードを落とすことなく全速力でその角を曲がろうとする。案の定、曲がり切れねえで俺の車は横転し、崖から滑り降ちる。それでWrecker(レッカー車)で引き揚げられてズタボロの俺はまたそこから〘RESTART〙だ。Rearview mirrorもHeadlightも、修復不可能になって来る。俺はいつもまるでこの世界に独りきりで存在しているように感じるんだ。俺はいつも寂しくてしょうがねえが、それでも俺は、スピードを落とすことはできない。俺には落とし方がわからねえんだ。みんな俺のことが理解出来ねえから、みんな俺をこう想ってる。
できるならば一生深く関わりたくはないDangerous Looney Mad Perfectバカってか?
そうさ。
Total Super Fool アホだな?
同じような意味合いを言い方を替えて二度言わんで良い。俺は、つまり、だれも本気で俺に近付こうとはしないんだよ。
だれも絶対に本気で近づきたくはないTotal Weirdo Nutcase Insanity ばか(トータル・ウィアードゥ・ナットゥケイス・インサニティ・バカ)だ。
でも俺は人と表面的関わりは死んでもできねえから深く深く闇の底までも引き摺り合ってく関わりを求めて関わるんだ。
そりゃだれとも続かねえぜ。
…はッ。俺だってよ、本当の本当に、魂が空になっちまうほど惚れた女がいたんだ。俺はその日、彼女を喜ばせる為にValentineのCakeを朝から作ってた。Decorationに俺の彼女への愛のメッセージを書くつもりだった。でもそれを書くまえに彼女がうちにやって来たんだ。俺は少し部屋を片付ける為にCakeのそばを離れた。そして戻ってきたら、テーブルの上には食べた残骸と化したCakeがあった。俺は彼女に問い質した。一体これはどういうことなのかね、と。すると彼女、気味の悪い笑みを浮かべて俺に言ったんだ。二月なのに彼女は暑さを感じて窓を開けた。そしたら1匹の大きなアシナガバチ(Paper wasp)が  🐝¯­­--­­_ぷーん。と言いながら飛んで部屋のなかに入ってきたんだ。彼女はそいつを見つめてた。するとそいつは旋回したあと、Cake上の中空に止まって自分のケツの先から、まるで出産するかのように白くて小さな球体のチョコを出して、Cakeのその表面にチョコペン風に点描し始めたんだ。書き終わるとそいつはまたぷーん🐝 𓂃 𓈒𓏸.。oஇと言いながら外に飛んで行った。そこにはこう書かれてあった。『君は在って、無い。』つまり"君は《在る》と同時に《無い》"とアシナガバチが彼女の為に書いたんだ。彼女はそれを、一人で食べた。俺と分けて食べたくなかったって彼女は言ったんだ。俺は泣きながら彼女に言ったよ。良いかね、それはまさしく天からのMessengerだったんだ。そんな素晴らしい奇跡を、ほとんどの人は、経験することなく死んでゆく。何故かわかるかい?信じちゃいないからさ、そんな奇跡が本当に起こり得るとはね。馬鹿げてるだろう…僕は君とそれを分けて食べたかったのだよ、真に…。彼女はとても嬉しそうに笑ってた。その、一ヶ月後のことだった…。
おい、俺ァその話、もう何万回と聴いたぜ。もうその腓(こむら)返りをしている間に浮かぶ奇怪な話みてえな過去を話すのはよせよ、もっと楽しい話をしようじゃねえか。
…彼女はWhitedayに死んだ。白い日に、彼女はまた啓示を受けたんだ。それは天使からの無言の啓示だった。純白の鳩が、窓から入って来て、それで、それで…
おい、良いからもうやめろって…
それでその鳩のケツから、最高に濃度の高いヘロインが出て来て彼女の口元へと注がれつづけたんだ。
おい、もう烏が寂しげな声で鳴き始めてるぜ、夜が明けたんじゃねえか?
純白の鳩は、純白の霊であり、それはイエスという花嫁だったんだ。彼は彼女を夫として選び、天に連れ去った。人の子の精液をその内へ注がれた者は、もはや此処では生きてはゆけないのだよ。
なあそれより俺の話を聴いてくれ。一人の男が、たった一人、愛し続けた女から見棄てられる。女は本当の愛に目覚めたんだ。女は男に言うんだ。彼に自分の全てを捧げると。男は嫉妬に狂いながら相手の男を監視し始める。だがその男を知れば知るほど、男は嫉妬の炎に苦しむんだ。何故なら、そいつはPerfectなんだよ。
そいつもPerfectbakaか。
おい、真剣に聴けよ?それで、そうそのパーフェクトバカ。じゃねえ、Perfect野郎、そいつは自分の知る男のなかで最高にCoolなんだよ。男はとうとう、マジで嫉妬に我を失い、男を殺しちまうんだ。それでその最も素晴らしく最も美しい男の死体を見つめて、男は気付く。その男はイエスであることを。そして男は、自分の彼に対する狂うほどの嫉妬は、彼に対する真の愛の為であったことを知って、イエスの亡骸を、父を抱き締めるように抱き締め、男は恍惚のなかに、昇天するのさ…。真の愛とは、真の愛で相手を愛するとは、相手からの真の愛を、何よりも切実に求めることなんだよ。男が本当に求めていたのは、女の愛(Erōs)ではなく、イエスの愛(Agape)だった。そして女も…
おい、『agape』の、《aga》は、『贖う』の《アガ》だと知ってたか?『aganow』、"贖う"は、元々《アガノウ》とも言っていたんだ。”我、今、神の愛也”という意味だ。
なるほどなあ、ってことはよ、つまり、『贖い(アガナイ)』とは、”神の愛がない”って意味なんだな?
そうさ。…って違うだろ、お前。
HAHAHA…なあ…俺はもうそろそろ帰るぜ。お前と久々に話せて、俺は嬉しかったぜ。
おい、もう帰るのか?
 
男はそう自分の向かいの席に置いてある姿見に向かって言うと、男の後ろに去ってゆく男の後ろ姿が見えて、男はその寂しげな後ろ姿が見えなくなるまで振り返らずに見送った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Marvin Gaye - I Want You