深夜零時半、ひとりの少女が、人けのない路肩を歩いている。
この少女は、何を考えているのか。
その顔は、何かに怯えているようにも見える。
その顔は、何かを待ち望んでいるようにも見える。
ほんの一瞬、目を離した隙に、少女が味わったものを。
それは目の前で今起きている。
誰かが糸を切ったんだ。
天から繋がれた糸を、誰かが切ったんだ。
脚が頭の上に載って腕は胴体の下にある。
それらは六つの個の生物のように地面の上でのたうっている。
断末魔の苦しみにたった独りで、誰もいないこの場所で。
少女は見開いた目で涎を垂らし、自分を包む闇を見つめている。
此処に、自分以外の誰もいないことを知る。
数日間の後、 少女は自分の切断された頭を切断された両腕で抱いて死ぬ。
遠くまで、独りでのたうった胴体の性器からは、血が流れている。
両脚は暗い森のなかに走り去り、見えなくなる。
それらはすぐに死んで腐敗し、数十年の後、 みずから永遠に忘れ去られる地として、封印する。
それから、数千年後。
一人の母が、この地に辿り着く。
この時初めて、母は此処に起きたことを知る。
それは今、此処に自分の目の前で起きている。
母は自分を産み落とす前に殺した娘に向かって、 呪うような低い声で喘ぎながら一つの言葉を吐き捨てる。
『これを犯したのは、だれなのか』