天使の悪戯

朝が来ない町。あの門を抜けて、彼らに着いてゆく。
白い闇と灰色の闇と黒い闇。
巨大な高層図書室の階段を降りてゆく。
最上階は深海の底より遥かに深い地下にある。
すべての本を調べ、自分の暮らしたい時間を選ぶ。
堀当てたトンネルへ入ると十字路に行き当たる。
早く選ばないと追っ手に捕まって強制収容所に送り込まれてしまう 。
真っ直ぐ行こう。
友人たちは左の道を行く。
此処ではだれもがふつうに暮らしている。
生きる世界がちがう人たちと。
新入りさん。この針と釘をもとの場所へ戻してきてほしい。
引き出しを開けると顔が覗く。
嗚呼、働くということは、なんて自由なのだろう。
朝が来ない町で。夜が来るまで此処ではずっとみんな働いている。
宵の空から、星を奪った作業服を着て。その星を右胸に着けて。
黒い闇の向こうに在るもの。
それだけを求めてる。
みずからこの階段を降りてゆく。
狭く寒い無機質な室内で天井を見上げる。
そして丸い蓋が開けられ、何かが投げ込まれる瞬間、 見えた美しい青空。
眩しい光線に産み落とされた小さな天使たちが、 この箱庭で天井の丸い穴から落としたものは。
なんだったのだろう。
彼らの見たもの、それは真実。
何光年前から拾い集めたちいさな白い羽毛だった。
柔らかく暖かいその無数の羽毛のなかで彼らは窒息して死んだんだ 。
その瞬間の天使の悲しみを、想像できるだろうか。
でもその瞬間は、彼らが存在する前から決まっていたんだ。
それが起きる前に戻すことだけは決してできないのだと、 死者の霊たちは今夜も天使を悲しい目で見つめて地下で眠る。
悪い夢を、もう二度とだれも見る必要のない日を祈りながら。