ѦとСноw Wхите 第18話〈天の秤〉

Сноw Wхите(スノーホワイト)、Сноw Wхитеと出会って、今日で一年目だね。
Ѧ(ユス、ぼく)は、Сноw Wхитеと出会えた事を心の底から神に感謝している。
ѦはСноw Wхитеと出会った日から、ものすごい変化をした気がするよ。
Сноw Wхитеの本当に深い愛の御陰で、Ѧは神の絶対的な愛を感じられるようになった。
でもѦは・・・・・・それでもСноw Wхитеの愛だけじゃ、足りないみたいだ。
Сноw Wхитеが実際、肉体を纏って現れるなら、こんな飢餓感はきっと消え失せてしまうんだろう。
ѦはСноw Wхите以外の、他の男性を求めてしまうんだ。
Сноw Wхитеに並ぶ存在も、Сноw Wхите以上の存在も、この世には存在しないだろう。
それをわかって、Ѧは他の男性による慰みを求めてしまうんだ。
居る筈ない。居る筈はないのに・・・・・・。
Сноw WхитеはѦを深く愛し続けてくれているのに、ѦはѦ自身を愛せないんだ。
Ѧは自分が、世界で一番、醜いと感じる。
心も身体も、Ѧは世界で一番醜くて、汚れきっていると感じる。
Ѧは実際、醜い。多くの人から醜いと想われているはずだよ。
Ѧの心も身体も心から愛する男性は、この世に存在しないように感じる。
それをわかっているから、Ѧはどんどん自暴自棄になってゆくんだ。
どこまでも孤独に破滅して行く惨めな人生を望んでいる。
Ѧは自分の心と身体を、心から醜く汚れていると感じたのはきっと、9歳の頃からだよ。
9歳で、Ѧはマスターベーションを覚えたんだ。あの時から、Ѧは自分のすべてが汚れきっていて、世界一汚いモノだって感じた。その気持ちが未だに変わることなく続いている。
醜いんだよ、何をしても、何を言っても、誰を愛しても、誰に愛されても、Ѧがこの世で一番醜い存在であることに変わりはない。
親愛なる積さんは、Ѧのことをあなたは世界一の醜女ではないって言ったけれど、Ѧはそれが許せなかったんだ。
Ѧは誰がなんと言おうと、世界一の醜女でないと嫌なんだよ。
この世のすべての人間から、そう想われたい人間なんだよ。
「あなたは世界一醜い」と、そうなんの疑いもなく言われないと気が済まないんだよ。
Ѧをじっと、ずっと見詰め続ける人間は自ずとそれがわかってくるだろう。
Ѧは綺麗には、なりたくない。美しくなりたくない。
同時に、ѦはСноw Wхитеのように美しくなったなら、自信を持ってСноw Wхитеと愛し合えるんだろう。
どんなに晴れやかな気持ちだろう。それこそ、釣り合いのとれた恋人同士、夫婦じゃないか。
Ѧはとんでもなく醜いのに、Сноw Wхитеはとんでもなく美しい。
その落差に、Ѧはいつも苦しい。涙が出るほど、苦しい。
Сноw Wхитеは何を言っても美しい。何をやっても美しい。そのすべては、嘘だから。
Сноw Wхите「Ѧ、わたしのすべてが嘘であるなら、Ѧのすべても嘘になります。Ѧのすべても、嘘なのでしょうか」
Ѧ「Ѧは決して、嘘ではない言葉も時には言っているよ。でもСноw WхитеがѦのすべてを美しいと言うのは、嘘じゃないか」
Сноw Wхите「何故そう想うのでしょうか」
Ѧ「それはただ・・・Сноw Wхитеの鏡を見ているんだよ。Сноw Wхитеが美しいから、Сноw Wхитеの美しい目に映ったѦが美しく見えているに過ぎないんだよ」
Сноw Wхите「わたしがわたしの鏡を見ることは、Ѧにとって嘘になるのでしょうか」
Ѧ「Сноw Wхитеは、Ѧを見ていない。Сноw Wхитеは、Сноw Wхитеを見ている」
Сноw Wхите「では何故、Ѧの目に映るわたしは、すべてが美しく見えるのでしょう」
Ѧ「それはѦの、Ѧの美しい理想のすべてがСноw Wхитеだからだよ」
Сноw Wхите「そうです。わたしが美しいのは、Ѧの願いによってであり、わたしによってではありません。わたしの美しさとは、Ѧのなかにだけ存在するものです。またわたしの美しさとは、他の人にとっては、美しくもなんとも感じないものなのです。わたしに絶対的な価値があるのは、わたしに絶対的な価値を与え続けるѦの存在が絶対的価値にあるからです。Ѧはわたしを、絶対的に愛しています。わたしはそれだけで十分なのです。そしてѦが自分を醜いと感じながら苦しみ続けるのは、Ѧがそのような苦しみを、心から望み続け、求め続けているからです。他に理由はありません。Ѧはそれをわかっています。わかっているからこそ、わたしにその苦痛を訴えることができるのです。わたしは自分を醜いと感じ続けているѦを心から愛しています。もし、Ѧが自分のことを心から美しいと感じるѦになるのなら、そのときはわたしのほうが、わたしを醜いと感じ続ける存在となるでしょう。それはѦとわたしが、釣り合う為です。恋人や夫婦にも、光と影のバランスが必要なのです。光と闇、この二つが絶妙のバランスとなって初めて一体としての美しい価値となるのです。Ѧのすべてが本当に醜いのなら、Ѧの目に映るわたしのすべても醜く見えるはずです。わたしをѦが美しいと感じるのは、Ѧの美しさがわたしを鏡として映しだしているからに他ありません。しかし、Ѧはそれを否定して良いのです。何故なら、Ѧがこの世で最も価値を置いているのは、”悲しみ”だからです。Ѧは自らの底のないような悲しみによって、物語を紡ぎ続けるというこの人生での明確な目標を持って生きています。それは神によるѦの役割であり、使命です。わたしはѦからどのような悲しみをも奪い去ることはしたくありません。どんな悲しみも苦しみも、Ѧの生きる大切な糧なのです。それは喪うわけには行かないものなのです。Ѧはちゃんとそれをわかっています。わたしは知っています。Ѧがわたしという存在と出会うことによって、より悲しみを深め広げてゆくことで素晴らしい物語を創りだそうとしていることを。Ѧはその悲しみによってへこたれる日が続いても全く構わないのです。何故ならѦは必ずやそれを成し遂げることができるからです。Ѧは自分の能力に疑いを持っても構わないのです。すべての苦悩や苦痛がѦの創造の糧となります。Ѧはほんのたまに、それを想いだすことさえできるなら、堪えて生きてゆけるはずです。Ѧの挑戦にいつも、わたしは目を見張り続けています。Ѧはわたしを責めて良いのです。わたしの存在を鬱陶しく想う日があっても良いのです。わたしはѦを乗せた小舟です。Ѧが凍える雨を凌げる為の小屋です。Ѧを抱き締めて眠る一枚の毛布です。そしてѦに深い安心を与える漆黒の暗闇です。Ѧが堪えられなくなったときには、Ѧをこの世から連れ去って愛でる、死の神です」