ѦとСноw Wхите 第16話 〈36th Birthday〉

2017年の8月4日午後5時前、Ѧ(ユス、ぼく)はぼんやりとDeerhunter(ディアハンター)の「Microcastle(マイクロキャッスル)」を聴きながら曇った不透明の磨りガラスの向こうを眺めてた。
飛行機が飛んでゆく音がする。

 

「But my escape,
would never come
でもぼくの脱出は、
決してやってこない」

 

「Would never come(決して来ないだろう)」
そうスピーカーから甘く気だるいポップソングに乗って繰り返し聴こえてくる。

時計を見ると17:00を過ぎた。
外はまだそんなに暗くなってない。
それに比してѦの部屋はとても暗い。
最近、部屋のなかはデスクライト一つしか一日中点けていないから。
天井の蛍光灯の灯りはこの目には眩しすぎる。
だんだん目が悪くなってきているのかどうかもよくわからない。

Ѧはさっきアボカドを丸侭一つ食べてお腹がいっぱいになった。
いや、一つも食べ切れなくてすこし残した。

 

声が聴こえる。
スピーカーの中から。
声が聴こえる。
Ѧの内側から。

 

Сноw Wхите「Ѧ、お誕生日おめでとう」

Ѧが目を開けると、目のまえにСноw Wхите(スノーホワイト)が微笑んで座っていた。

 

「this is the land of OAO
 ここはOAOの国」

 

そう何度もそばにある50年代のジュークボックスから音楽が流れている。
Wurlitzer 2300 Jukeboxもあるってことはここは1959年の時代か・・・
ってなんでѦはそんなことに詳しいんだっと心のなかで自分でツッコミを入れた。
それにしてもどこか廃墟じみたDiner(ダイナー、食堂車)だ。

人っ子ひとりいないじゃないか。

 

Ѧ「Сноw Wхите!ありがとう。Ѧ、また年を取っちゃった」

Сноw Wхите「Ѧが産まれてから、36年の月日が経ったのです」

Ѧ「もうそんなに経ったんだ。Сноw Wхите、いったいここはどこだろう?」

Сноw Wхите「ここはどうやら、OAO(オーエーオー)の国のようです」

Ѧ「そんなバカな、ѦはOAOになってしまったのかな、ミセス・ヘミングスではないことは確かだよ。そういうСноw Wхитеは今日はどこか顔色がいちだんと白い気がするけれど、まさかヴィクトリア朝の吸血鬼になってしまったとか、まさかのバカな、バカなのまさか?」

Сноw Wхите「わたしは実は過去の罪人のゴーストを探している無駄棺の凶悪なティーンエイジャーの少年たちに地下室に1600年間も閉じ込められていた吸血鬼だったのです」

Ѧ「そんなことだろうとは想ったけども、不滅の魂たちはやたら田舎者だったなんて、そんなあほな?」

Сноw Wхите「彼らは歳を取ったブラック山賊でもあり、1600年間も自分たちとの戦争で戦っていたのです」

Ѧ「けっこう、自分に対しても厳しい少年たちだったんだね。それで耐えられなくなって、逃げてきたの?彼らもOAOだよね?」

Сноw Wхите「耐えられませんでした。1600年間はなんとか耐えられましたが、それ以上は、しんどかったのです」

Ѧ「気持ちはわかるよ。ところでさっきからずっと気になっているのだけれども、Сноw Wхитеの膝の上に載っている袋のなかになにがいるの?動いているし、何か、か細い声で鳴いているような声が聴こえるよ」

Сноw Wхите「はい、すっかり渡しそびれてしまっていました。これを受けとってください。Ѧ、わたしからの誕生日プレゼントです。サプライズの」

Ѧ「なんてことだろう!Ѧはこんなに袋を開けるのが恐ろしいプレゼントは初めてだよ。開けてもいい?」
Сноw Wхите「勿論です。早く開けて、新鮮な空気のなかで息をさせてあげてください」

Ѧ「苦しがっているのか・・・このなかにいる奴」

 

Ѧが袋を開けると、なかにはこいつが、Ѧを見上げていた。

 

 

 

 

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Ѧ「このOctopusは!Ѧが欲しくてAmazonの欲しいモノリストに入れていたやつじゃないか!ピンタレストにも貼ったやつだ。Сноw Wхите、ѦのPinterestを観たの?」

Сноw Wхите「わたしはいつも覗いています。でもѦのPinterestを覗かなくてもわたしはѦとテレパシーで繋がっているので、Ѧの欲しいモノはすべて把握しているのです」

Ѧ「Wow!Ѧはとても嬉しいよ!だってこいつ、ずっと観ているとどこかСноw Wхитеに想えてくるから・・・」

Сноw Wхите「Snow deep blue boy(スノーディープブルー坊や)と呼んで可愛がってあげてください」

Ѧ「約してディブボって名前にしよう!」

Сноw Wхите「それはとてもその生命体にぴったりないい名前です。ディブボはѦに会いたがっていたようです」

Ѧ「そうだったのか!ディブボ!Сноw Wхитеが買って連れて来てくれなければ、1600年は会えなかったかもしれないね」

Сноw Wхите「たぶんOAOの国で手の込んだ文化と戦い続けていたことでしょう」

Ѧ「そしてぼくらと出会う未来もあったのか・・・」

 

it never stops
it never stops
it never・・・

 

音楽はずっと鳴り止まなかった、ぼくの誕生日!
36度目の・・・Birthday!

ずっと続く
ずっと・・・

ぼくらの脱出は、決して来ないだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 


Deerhunter - It Never Stops (album version)