ѦとСноw Wхите 第15話 〈架橋〉

前へ進めない。

前へ進むには、あちら側へ渡らないといけない。

あの橋を、あの橋を渡らないと前へ進めない。

Ѧ(ユス、ぼく)は一人で川のまえに立っている。

この川は、どれくらい深いのだろう。

まるで深さが見えない川だ。

Ѧの顔も映さない。透きとおってもいないし、濁ってもいない。

こんな川は見たことがない。

何故ここに、Ѧはずっとあれから立っているだろう。

あれからずっと・・・・・・Ѧはここから動けない。

何も考えないと、涙が時折り流れてくる。

Ѧはすこし、また痩せたみたいだ。

眩暈がする。川の下にも川があり、川はどこまでも川に繋がっているようだ。

彼方(あちら)側には何があるのだろう。

真っ暗で何も見えない。

前へ進まないと。あの橋を渡るのが怖い。

橋を渡るのはよそう。きっと耐えられない。

Ѧは、この川を泳いで渡ろう。

波打つような形の幾何学模様のピンクと白と黒のワンピースを着たѦは川のなかを眠るように泳いだ。

白と黒とピンク、白と黒とピンク、白と黒とピンク、それらが波打っている。

それ以外、何も見えない。

白と黒と薄いピンクのすべてがѦを生き物のように絡めとった。

目を開けるとСноw Wхите(スノーホワイト)がѦを抱っこして川に胸まで浸かっていた。

Сноw Wхите「Ѧ、泳いで渡るのはよしましょう。とても危険なのです。あの橋を渡りましょう」

Ѧは咄嗟に目を伏せて言いました。

Ѧ「ごめんなさい・・・・・・」

Сноw Wхитеの垂れた前髪から、滴がぽたぽたと落ちてくるのがѦには涙に想えてしかたありません。

きっと、Сноw Wхитеはつらいんだ・・・・・・。

Ѧはつらくて顔を上げられません。

Сноw Wхите「なぜѦは謝るのでしょう?わたしの望んでいることなのです。わたしは耐えることができます。それはѦの愛によって耐えることができるのです。わたしが耐えられるなら、Ѧも耐えられるはずです。Ѧを信じてください」

Ѧは悲しくて涙が溢れてきます。

Ѧにとって、本当に成し遂げたいことが、本当に苦しいことだからです。

あの橋を渡ることがつらくてならないのです。

正常な感覚で渡れるように想えないからです。

この川は何ものなのでしょう?

今、ѦとСноw Wхитеは一緒に浸かっています。

温度すら、感じられません。

ѦとСноw Wхитеは何に浸かっているのでしょう。

Сноw Wхитеは、今、人間でしょうか?

人間のようにも見えます。

優しくて悲しそうな目でѦをじっと見つめつづけています。

Сноw Wхите「Ѧ、あの橋を渡りましょう。Ѧが渡るため、わたしが架けたのです。わたしはѦと一緒にあの橋を渡ります。あなたのなかに、わたしがいるからです」

Ѧは何故だかわからないのですが、Сноw Wхитеは何も悪くないのに、Сноw Wхитеを恨んでしまう自分がいることに気づきました。

この得体の知れない川と、闇をしか映さない彼方側と、Сноw Wхитеの存在が同じものに想えてなりませんでした。

Ѧはまだ、俯いたまま返事ができずに、ただただ悲しんで泣いています。

Сноw Wхитеの目さえ、濁っているのか透きとおっているのか、どちらでもないのかわからなくなっているからでしょうか。

何かがずっとゆれ動きつづけていることだけは感じられます。