ベンジャミンと先生 「先生の手紙」

新しい年、2017年がやってきた。

でもベンジャミンはまだ17歳。

ベンジャミンは朝起きると寝巻きの半袖のTシャツのままで外に出て、腕をさすって犬のように身震いしながらポストの中を覗いてみた。

先生から年賀状は届いているか知らん。

すると一枚の年賀状が尋常でない状態であるのを発見した。

ベンジャミンは眼鏡をかけていたが目をわずか4センチくらいの距離に近づけてその書いてある文面を読んだ。

米粒よりも小さな文字だった。

 

 

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おまえはおまえなんだから、おまえはおまえじゃないか。
おまえはおまえだろう、または、おまえだろう。
おまえはあいつではない。だからおまえはあいつではない。
おまえはおまえであり、かつ、おまえだ。
おまえはおまえである。または、おまえである。
おまえがおまえであるならば、おまえはおまえではないのか。
おまえはおまえに等しいゆえに、おまえはおまえである。
おまえは死ぬ。だからおまえは死ぬ。
おまえは生きている。または、おまえは生きている。
空が海であるなら、海は空であるだろう。
闇は闇であり、かつ、闇だ。
光は光である。または、光である。
光が光であるならば、光は光ではないのか。
闇が闇ではないのならば、闇は闇ではないではないか。
無は無で在るがゆえに、無は無で在る。
虚無は虚無ではないのだから、虚無は虚無ではないではないか。
絶望は絶望であるならば、絶望は絶望ではないか。
虚無は絶望ではないゆえに、絶望は虚無ではない。
絶望は虚無であるのならば、虚無は絶望である。
おまえは虚無である。または、おまえは虚無である。
おまえは生きていないなら、おまえは生きていない。
おまえが死であるならば、死はおまえではないのか。
おまえが死である以上、おまえは死だ。
おまえが生である以上、生はおまえだ。
おまえが無から生まれた以上、無はおまえだ。
おまえは存在であるならば、おまえは無ではないのではないのか。
おまえは生であると同時に死であるならば、おまえは生と死である。
おまえは生であり、死である。または、死であり、生である。
おまえは生である。または、死である。
おまえは光であり、かつ、闇だ。
おまえは絶望であるがゆえに、絶望はおまえである。
おまえは希望であるならば、希望はおまえではないか。
おまえは死んでいないなら、死はおまえではない。
おまえは生きているならば、生はおまえである。
おまえはおまえであり、かつ、わたしだ。
おまえがわたしである以上、わたしはおまえだ。
死がおまえであるというならば、死はおまえにはなれない、なぜならおまえはすでに死だからである。
わたしがおまえであるならば、おまえはわたしにはなれない、なぜならわたしはすでにおまえだからである。
おまえは無であるなら、無はおまえになれない、なぜなら無はすでにおまえだからである。
おまえは無である。または、存在である。
おまえは存在であり、かつ、無である。
おまえは蕪ではない限り、おまえは蕪ではない。
おまえが無であるがゆえ、無は存在である。
存在が無ではないというなら、無は存在しない。
存在しない存在が存在するならば、無は存在であり、存在は無である。
存在しない存在が存在しないということが存在するならば、存在しない存在が存在しないということが存在しない存在がすなわち無である。
おまえは無ではない。または、おまえは無である。
おまえは存在である。または、おまえは夢である。
おまえは夢のない世界を知らないならば、夢のない世界はおまえを知らない。
おまえは夢の世界を知るというならば、夢の世界はおまえを知る。
おまえが夢に生きるならば、夢はおまえを生きる。
おまえが死に生きるならば、死はおまえを生きる。
おまえが死を愛するならば、死はおまえを愛する。
おまえが夢を愛するならば、夢はおまえを愛する。
おまえがなにかを求むなら、求むなにかはおまえになる。
おまえが愛をかんじるなら、かんじるすべては愛である。
おまえが愛を求めるならば、もとめるすべては愛である。
おまえが愛を悲しむならば、かなしむすべては愛である。
おまえが愛を苦しむならば、くるしむすべては愛である。
おまえが死を愛するならば、死は愛であり、愛は死である。
おまえが死を恐れるならば、恐れは死であり、死は恐れである。
おまえが無を愛するならば、無はおまえを愛し、無は無ではなくなる。
おまえが無を求めるならば、無はおまえを求め、無は無ではなくなる。
おまえが死を求めるならば、死はおまえを求め、死は死ではなくなる。
おまえが悪をのろうならば、悪はおまえをのろい、のろいは悪となる。
おまえはそれがゆえにもっとも恐れるものをもっとも愛しなさい。
おまえはそれがゆえにもっとも呪うものをこころから愛しなさい。

 

 

 

 

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裏を返して送り主を見てみるとやっぱり、先生からだった。

ベンジャミンはおもいっきしくしゃみをすると鼻をすすりながらおうちへと入ってストーブの前でもう一回読み直し、頭を悩ませ、またお腹のあたりが変に気持ち悪くなってくるのだった。

でも先生の年賀状はとても嬉しかった。

ぼくの年賀状は無事に届いたか知らん。

美しい朝焼け空のなかに先生の寂しげに微笑う顔が浮かんだ。