亡者

お酒ってのはいいね。嫌なことを平気でできちゃう。シリアルキラーと呼ばれた人だって死体の解体には酒がないときつかった人がいたそうだよ。お酒があればなんだってできる。ずっと好きだった人に告白もできる。ずっと嫌いだった人を殺すこともできる。唾を吐いて地獄に堕ちろと言える。とにかく嫌なことをなんだってできる。酒の力があれば。人から馬鹿にされてばかりで実のところ自分が一番自分を馬鹿にしている。辛いだろう生きるのが、もっと苦しむといい、酒があれば生きていけるさ。なにもかも忘れさせてくれる酒がおまえには必要だ。もっと強い酒を、悪い酒を飲んで寿命を縮めるといい。人間の人生はそんなものだよ。大それたことじゃない。おまえがどんなに苦しもうが、それはまだ、まだこの世界では大それたことじゃない。おまえは胸を時めかせて待っているといい。本当の地獄というものを。どのような肉体的苦痛の拷問をも凌ぐ精神の苦痛がおまえにも必ず訪れるだろう。見たこともないほどの醜い物、それがおまえになる。

俺の知らないところで多くの人が俺を馬鹿にしているんだ。

それがどうした、お前の知らないところでおまえがなんで馬鹿にされるんだ。そいつらは自分の鏡を馬鹿にしているだけだ。可笑しいだろう、みんな自分に向かって馬鹿にしては、嘲笑ってるんだよ。この世は自虐ばかり、自虐地獄だ。自分を殺して苦しまない人がいようか、例え憎き自分であろうとも、それは愛には違わない、愛によって苦しまない人はいようか。みんな苦しみたい奴ばかりだ、一人残らず。だから他者を苦しめたがる、それが自分だからだ。自分の至らなさは他者の中にはより見えてくる。何度でも言ってやろう。おまえは自分しか見てはいない。すべての者が自分だけを見ている。何故他者の中に自分にはないものを気づくことができようか。闇を知る者が何故己れの中にない闇を闇と認識でき得る。

自分の中になければ、どうだっていいことだ。だから平気で他者を甚振る。虐げる。殺すんだ。彼等が純粋でなくて、一体何が純粋というのだろう。

幻想を死ぬまで追い求めるがいい。それはどこにも存在しないものだからだ。

真理も神も本当もそれはどこにも存在しないものだからおまえが息絶え朽ち果てるまで乞い求めるがいい。

親の愛を知らぬ亡者のように。