SILENT FILMS

田んぼと田んぼの間の道を通り抜けて田んぼの中に足を入れた。

お父さんに持っていかなくちゃならない小さい田んぼを手に持って。

その田んぼを田んぼの中に入れて、田んぼの泥濘は甚だしく、ほんま気持悪かったわ。

足を膝上までずぶらせとったからなあ、だってもし中に死体でも沈んでる可能性もないわけじゃなし。

田んぼから上がって足を洗ったよちょうどあった水道で。

しかし汚泥を流したところで、もう間に合わんのんちゃうんか。

その頃、幹部のまだ三十六歳の町田康は全身白い服着て誰の結婚式か知らんがチャカをぶっ放す機会を待ちあぐねていたと思うともう撃ってた、ケーキに入れる刀より一分かそこら早い時間やろ、真っ白な町田の服に返り血、突っかかるようにして後ずさり、でかいケーキの台に背中が当たった、その場におったヤクザたちに一斉に撃たれてずりずりと腰を抜かし目ぇ見開いたまま町田幹部のあっけない最期、まるでサイレントフィルム。

後でわかったことやけど目的のヤクザの宅間守はその場に来てなかった。

個人的な恨みというが、うちの大事な幹部殺されてたとき、俺、田んぼの横で足あろててんで?自分に対して納得行かんやろ、これ。

俺の拘束具をだんだん増やして行くことで俺が重くなっていくから俺の形に凹んだ地面で作れるものがあなたの拘束具になっていることを。ええから聴いてください、町田幹部、俺の流したあの時の汚泥とあなたが流した返り血の細胞が入れ替わってしまったみたいなんですよ、あなたの拘束具が俺の昨日から離れたときに俺が父親に小さな田んぼを二つかそこら持っていかなくちゃならなくなって、でも実はあの時俺、自分の拘束具で自分を縛ってて暗い部屋で自分の吐き出した汚泥で型を作ってたんですよ、それが何か今わかって、それ町田幹部の明日の拘束具だったんですよ。町田幹部、わかりますか?これ長くて短いサイレントフィルムで、目が覚めると跡形もなく消し去ることだってできる世界だったんです。でもあなたの死にざまは現実のどの色より、鮮やかでほんまかっこよかった。俺は今誰が観てるサイレントフィルムの中にいるんや。