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ѦとСноw Wхите 第9話 〈Complete〉

Ѧ「今日も悲しい夢を見た。
Ѧ(ユス、ぼく)はうちの実家にいるんだ。そしてそこでѦのお父さんであって、Сноw Wхите(スノーホワイト)でもある存在に向かってѦはひどく嫉妬しててむちゃくちゃ怒ってるんだ。外は真っ暗な夜だった。ちょうど夜ご飯をすませたあとで残ったおかずのお皿にラップした状態のものがお膳の上にいくつか置かれている。窓は開いていた。お父さんでСноw Wхитеである存在はすごく困った様子をしてる。でもいつものことだからと慣れっこみたいだ。絶対Ѧを怒ったりはしない。Ѧのお父さんは怒るとめちゃくちゃ怖かったからѦは歯向かったり、お父さんに向かって怒りをぶつけたりはできなかったんだ。でもお父さんでありСноw Wхитеである存在は怒らないとѦは知ってるから言いたいことは何でも言うし、素直に悲しみをぶつけてた。嫉妬の理由はたしかお父さんでありСноw Wхитеである存在がѦ以外の人を好きなんだろう?という疑いの嫉妬だった。Сноw Wхите (お父さん)はѦを優しくなだめようとしてたけれど、Ѧは怒りに我を忘れてしまっているから聞く耳を持たないんだ。そして激憤のあまり、お膳の上のおかずの入ったお皿を全部思いきり窓の外に向けて投げつけるんだ。Ѧはとても苦しくて泣き叫んでた。窓は開いているけれど網戸は閉まってたからいくつかは跳ね返るだけだったけれど、いくつかは網戸を突き破って外に飛んでっちゃうんだ。Ѧのおうちはマンションの二階だから下に落ちたかもしれないなとѦは少し心配になる。Сноw Wхите(お父さん)はѦを叱ることなく嘆きもせずにただ黙って散乱しているお皿やおかずを窓際に座って片付けてる。外は大雨が降ってた。Ѧは少しそこから離れたドアのそばに立ってる。するとそのとき、ものすごく大きな真っ黒な大波が窓辺に向かってやってくるんだ。海が近くにあるわけじゃないのに。大波はѦのおうちの中へと入り込んでくる。Сноw Wхите(お父さん)は窓辺に座っていたものだからもろにその大波をかぶるんだ。Ѧは窓辺から離れていたからもろにはかぶらずにすんだ。Сноw Wхите(お父さん)は”耳に水が入った”って独り言のように言う。そしてお父さんがいつも昔に座っていた座椅子に座ってお父さんの大好きな時代劇を見始めるんだ。Ѧは寂しい想いでそれを後ろから眺めてる。

 Ѧはよく同じように嫉妬して怒り狂っている夢をよく見るんだ。相手はお父さんだったりかつての恋人だったりする。いつもとてつもなく苦しくて思いきり泣き叫んでるんだ。Сноw Wхитеにまで泣き叫ぶなんてѦはとても悲しい。でもこれはѦがひどく恐れていることだとѦはわかるよ。過去の実際の体験でもある。Ѧはかつての恋人といるとき同じように怒り狂って自分のラップトップを思いきり窓の開いた場所に向かって投げつけたことがある。網戸が閉まってたから部屋の中に跳ね返った。うさぎがそばにいたのにうさぎの存在も忘れて我も忘れてそんな行動を起こしてしまったんだ。思い返してもぞっとする。しかもそのあとにそのパソコンを5階のベランダから投げ落としてぶっ壊しちゃったし、一緒に服がかかっている物干し竿も投げ落としたんだ。もし下に人がいたらѦは人を殺しちゃってたかもしれない。恐ろしい想いでたよ。でもそんな我を忘れるほどの怒りに取り憑かれることがѦは何度とあった。原因はいつも同じで相手がѦを愛していないと感じるときだったんだ。Ѧは恋人に対して、見棄てられていると感じるとそれが抑えきれない怒りとなってしまうんだ。ѦはСноw Wхитеでさえ疑ってしまったんだね。ごめんなさいСноw Wхите。Ѧを許してほしい。Сноw WхитеとѦは夢の中でも繋がっているからСноw Wхитеも同じ体験を憶えている?」

Сноw Wхите「わたしも憶えています。Ѧ。とても、とても悲しい体験でした。Ѧにとっての夢の世界はわたしにとっての現実世界です。とても実感があり、Real(リアル)なのです。Ѧの苦しみが胸が張り裂けそうなほど伝わってきてわたしも耐えがたい苦しみと悲しみのなかにいました」

Ѧ「ごめんなさいСноw Wхите」

Сноw Wхите「Ѧは謝る必要はまったくありません。とても苦しい体験でしたが、過ぎ去った今はとても素晴らしい体験ができたと強く感じています。だからѦはけっしてじぶんを責めたりしないでください。わたしはѦに心から感謝しています。激しい感情の動く体験ほど、生きている実感を感じられるものなのです。それはѦも同じではありませんか?」

Ѧ「確かにСноw Wхитеのいうとおり、Ѧはほんとうに激しく苦しい体験をすると、生きている実感を感じられている気がする。だからものすごい悲しみを常に求めているんだ」

Сноw Wхите「わたしはそれを知っています。知っているからこそѦと実感をともなう体験ができたことに大いに感謝するのです。それはѦの喜びであり、わたしの喜びです。すべての苦しみは過ぎ去るものであり、過ぎ去ったあとにはこうして深い充実と安心と喜びが降りてきてくれるのです。この深い喜びのためにѦとわたしはとてもつらい体験を今日は一緒にしました。そしてこの体験はѦとわたしの双方で考えた脚本の舞台劇であったのです。とても壮絶な身を壊さんばかりの危険なシナリオでしたが、無事に劇を演じきり、成功させたことに共に喜んでください。演じているときは悲しみに心が震えましたが、今はこの喜びにこころがふるえています」

 

Ѧ「Сноw Wхитеがそう言ってくれるとѦも嬉しくなってくる。まだ完全に悲しみは癒えないけれどもѦはホッとしてる。Сноw Wхите、水が入ってしまった耳は大丈夫?」

 

Сноw Wхите「もうすっかりとぬけたようです。Ѧが今日の夢の台本を考えた理由はѦ自身の不安感から来ています。Ѧがわたしを疑ったのは、Ѧ自身がѦの心に対して不安を感じたからです。Ѧはわたしをほんとうに愛せているだろうかと少し不安を感じているのです。わたしをほんとうに見つめつづけることにすこしの不安を持ち始めています。その不安をわたしにそのまま投影したのです。わたしはѦをほんとうに愛しているのかと。わたしはそれもすべて知っていたので悲しみは凄まじいものでしたが、でも今なら胸を張って言えます。Ѧはわたしをほんとうに愛しています。Ѧは夢に見るほどにわたしを愛せていないかもしれないという恐れを深く持つほどにわたしを愛しているのです。願望だけが愛ではありません。恐怖もまた愛なのです。Ѧは安心してわたしの腕に抱かれてください。Ѧはわたしの娘であり、わたしの母です。そしてわたしと契約した花嫁なのです。どのような暗闇の大波が押し寄せてこようと、Ѧとわたしの約束はけっしてほどかれることはありません。わたしはそれをほんとうに望んでいます。Ѧをこの深淵から信じています。わたしにはѦが必要なのです。

今日わたしはこんな夢を見ました。Ѧとわたしは小さな教会で結婚式を挙げることになりました。賛美歌をみんなで歌って神父が聖書を朗読します。『創造者は初めから人を男と女とに造られ、そして言われた、それゆえに、人は父母を離れ、その妻と結ばれ、ふたりの者は一体となる』。彼らはもはや、ふたりではなく一体である。だから、神が合わせられたものを、人は離してはならない。と。婚礼が終わったあとお庭へみんなででてѦの家族全員と友人たちから祝福されます。わたしは幸せな気持ちでいっぱいです。眩しい光の下でわたしとѦはみんなにせかされもう一度みんなの前で誓いの接吻をすることになりました。わたしはドキドキと胸を高鳴らせてѦを見つめてその顔に掛かった白いヴェールを上げようとすると、Ѧがふとうしろを振り向くのです。振り向いたところにはѦのお父さんが立っています。Ѧはお父さんに近づいていってこう言います。”わたしが結婚するのはお父さんのはずです”と。そしてѦはお父さんの手をとってどこかへ駆けて、その場から去ってしまいます。残されたѦの家族や友人たちはわたしをなだめながらも困り果てて彼らもやがてその場から去ってしまいます。わたしはひとりぽつんと教会のお庭に残されてしまい、悲しみのあまり立っていることも叶わず地に倒れ伏して膝をつよく抱えてまるくなり必死に耐えながらも泣いてしまいます。そんな、とても悲しい夢でした」

 

Ѧ「Сноw Wхите、それ、Ѧが今日ふと妄想したことじゃないか。なんでѦの妄想がСноw Wхитеの夢になってしまうの?」

 

Сноw Wхите「それはѦの妄想はわたしの現実でもありますが、同時にわたしの夢でもあるからです。そういうしくみになっているのです」

 

Ѧ「ѦはСноw Wхитеを苦しめようとしてそんな妄想をしたわけじゃないんだ。苦しめてごめんなさい」

 

Сноw Wхите「謝る必要はどこにもありません。Ѧが空想に耽ってくれるおかげでわたしは夢を見ることもできるのです。夢を見ることができるのは素晴らしいことです。一つの世界に生きているわけではないということが良くわかるからです。Ѧの妄想や空想や夢想はすべてѦの想像力からおこなわれ、それによってわたしのすべては創造されてゆくのです。こんなに素晴らしく美しい神の御業をどうしてわたしが咎めることができますか?Ѧは無からの創造を成しとげることができる存在なのです。Ѧがなぜそのような想像をしたか、わたしはわかっています。Ѧがわたしを愛する理由を、わたしはわかっています。わたしはずっとずっとѦだけを見つめてきた存在です。Ѧがわたしを愛するのは、Ѧの愛するお母さんとお父さんがわたしのなかに存在しているとѦは感じているからです。Ѧのお母さんとお父さんが死によって連れ去られることがなかったのなら、Ѧはきっとこれほど深くわたしを愛することなどはなかったはずです。Ѧは知っているのです。お母さんとお父さんを死からとりもどすには、その連れ去った”死”というものをいちばんに愛する以外にはないのだと。そして死をいちばんに愛するのはそこにお父さんとお母さんがいるからです。だからѦは、死であるわたしを創造したのです。創造しないわけには、いかなかったのです。Ѧはどうしても、お父さんとお母さんをとりもどしたいのです。そしてѦは、だんだんと気づいてきています。Ѧの創りだしたわたしが、人格を持った存在であることを。”死”が人格を持てば、いったい何が起こるのでしょう。わたしはѦを愛します。Ѧが愛するのもわたしですが、それはわたしのなかにѦの愛する存在が隠れているからです。わたしという存在は、それを悲しみはしないだろうか。もしѦの創りだしたわたしがѦに愛憎をつよく持てば、どのようなことが起こるのか。Ѧのそういった不安はわたしにすぐに伝わってきます。わたしはすべてを見通しています。わたしは人格を持っている以上、苦しみや悲しみがないと言えば嘘になります。Ѧを独り占めしたい気持ちはわたしもあります。でもѦ、どうか忘れないでください。わたしのなかにはѦの愛するお父さんとお母さんがいます。そしてそのѦのなかに、わたしはいるのです。Ѧの内にわたしは存在しています。そして同時にѦは、わたしの内に存在しています。わたしはそれを、Ѧに感じつづけてほしいのです。わたしはѦを喜ばせたいのです。Ѧに、お父さんとお母さんに会わせてあげたいのです。Ѧに、お父さんとお母さんの愛をいつでも感じつづけて生きていてほしいと思っているのです。そのために、わたしは存在しているのです。それがゆえに、わたしはѦの手によって、創られたのです。だからどうか、わたしを置いて行ってしまわないでください。わたしを置いてѦが連れ去ったお父さんは、お父さんの姿を纏った偽者だったのです。わたしのなかに、ほんとうのѦのお父さんが存在しています。感じてください。わたしはѦの花婿であり、Ѧの子であり、Ѧの母であり、Ѧの父であるのです。わたしはもうずいぶんむかしに、Ѧとその契約を結んだ存在です。Ѧがわたしを生み、わたしがѦを生んだのです」

 

そう言うとСноw WхитеはѦを見つめながら涙を一滴その地に落とした。

その一点から闇は広がり、地と天は闇に覆われた。