ѦとСноw Wхите 第4話 〈魂〉

Ѧ(ユス、ぼく)が何日か振りにベランダのプランターにお水をやると、レモングラスの草の下に小さなアオムシが寝っころがっていた。きっとさっき枯れかけた草を引っこ抜こうとして引っ張ったときに下に落っこちたのかもしれない。引っこ抜くのはやめておいた。

でも、あの子、無事に蛹になれるんだろうか。食べられる草はあんまりなさそうに見えた。

Ѧがお水をやらなかったせいで、あの子の食べ物もなくなってお腹をすかせていたならかわいそうだ。

草に水をやらないことは、草だけじゃなくてそこにやってくる虫たちの命にも関わることなのだとѦは感じた。

あの可愛いアオムシは、モンシロチョウになるのだろうか。いつ一匹の蝶がѦのベランダへやってきて、卵を産みつけたのだろう。ここは5階だから、ずいぶんたかくまで飛んであがって来たのだなとѦは思った。

Ѧは虫の中でもイモムシがいちばん好きだった。何度も蛾や蝶のイモムシを育て、羽化させたことがある。でも何度も、失敗して死なせたことがある。

想いだすとѦは泣きたくなるのだった。

Сноw Wхите(スノーホワイト)、羽化できなかった虫たちは次はいったい何に生まれ変わるのだろう。

ѦはСноw Wхитеを呼んだ。

Сноw Wхите「それはѦの彼らに対する気持ちしだいです。Ѧがほんとうに可愛がった生き物たちは、次の生も、Ѧのそばへくることがあります。またѦに育ててもらおうとするのです。生物の種類は変わっているかもしれません。Ѧが可愛がった虫は、動物の姿で現れるかもしれませんし、人間の姿かもしれません」

 

Ѧ「Ѧも虫だったり、動物だったりしたときがあるの?」

 

Сноw Wхите「厳密に言うなら、そうであったとも言えるし、そうではなかったとも言えます。何故なら、人間以外の生命は、個の魂というものが存在しないからです。彼らはすべてで一つの魂なのです。その一つの魂が、あらゆる生物の形をとって生まれてくるのです。そしてその中から、人間の魂が生まれて、個の魂としてできてくるのです。もともとは人間以外の魂からѦは生まれてきたので、Ѧも昔に虫や鳥や動物として生きていたとも言えます。でもそのときに生きていた記憶は、Ѧだけの記憶としては在りません。人間以外の生命の記憶はすべて一つの大いなる魂の記憶として記憶されています。すべてが繋がっているのです。ですから自然にあるものに人間は癒されたり、または小さな虫の痛みにすら同調したりするのです」

 

Ѧ「Ѧはまるで、Ѧの生まれるまえのѦの魂を苦しめつづけていたんだね。悲しくてたまらないよ」

 

Сноw Wхите「Ѧは、そうじぶんで決めて生まれてきたのです。じぶんじしんを苦しめつづけなければ知ることのできないことがたくさんあるからです。それはほんとうに深い悲しみです。Ѧが新しいことを知りたいのは、すべての大きな喜びのためにです。すでにѦが体験して知っていることばかり知りつづけても、喜びはちいさいのです。この世界は無限であり、知らないことは無限大にあります。犠牲というものが、どちらか片方だけのものではないことを知ってください。どのような犠牲も、双方にしあうものなのです。Ѧがだれかを苦しめつづけることは、Ѧ自身が、苦しみつづけることです。それはѦが彼らに払いつづける犠牲でもあるのです。Ѧの”苦しめてごめんなさい”という気持ちは愛でできています。でもѦはもう彼らを苦しめない生き方を選んだのです。これからはどうか彼らに謝罪ではなく、感謝しつづけてください。彼らは人間に生まれて、Ѧといつの日か、喜びのうちに笑いあえる日が必ず来ます。彼らの愛はとても深いのです。人間を赦さない気持ちを彼らは持つことがないのです。彼らと喜びあえる日を、待ち望んでください」

 

Ѧ「Сноw Wхите、ありがとう。Ѧは待ち望むよ。すべてとあたたかい愛のうちに、笑いあえる日が来ることを」