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インダとガラメ  番外編 「不自由」

 何かに怯えている。何かに。怯えて恐れ縮むどころか膨らみすぎて熱くなっているよ。怯えているのに。何かに。熱くて止まらないものがある。

 ここに親に捨てられた子供インダと親を殺した子供ガラメがいる。さて、今回はどうしたらこの子供は自分を肯定し得るのか。観てみよう。

 わたしは親に捨てられた子供インダの守護霊だ。

 わたしは親を殺した子供ガラメの守護霊だ。

 二人は隣の星星からあたたかいまなざしで望んでいる。その子供たちを。

 インダはあののち、なんどとじぶんの命を奪おうとしたものの、それは叶わなかった。

 ガラメはあののち、なんどとインダをじぶんの物にしようとしたものの、それは叶わなかった。

 二人は同じ学校へ通う。席は今も隣同士だ。ここは犯罪を犯した子供たちの通う学校。なかでもいちばんのガラの悪い子供はガラメであった。

 ガラメはとにかく、言いたいことは相手がどう傷つこうが言う。インダはいつもガラメのひねくれた愛によって傷ついていた。

 さいきん、先生は子供たちすべてに貯金をはたいて奮発し、いちばん安いパーソナルコンピューターなるものを買ってやり、インターネットというものを通して、子供たちと共に顔の見えない場所で交流することでなにかを学ばせようとしていた。

 このクラスの生徒たちと先生だけが入ることのできるチャットルームを作って、みな好きな自分のID名を作り、その名前で交流していくことを決めた。

 しかしやっていくと、誰が先生であるかはみなにすぐにばれてしまった。

 そして個性が強く文字だけからも独特なオーラを発しているインダとガラメの存在もみなに早々にばれてしまったのだった。

 それでもインダもほんとうに言いたいことは言う子であったし、先生も先生が言ってはならないようなことも平気で言う人間であったのでみんなが好き勝手に喋り尽くせる場として、このチャットルームはいつも人気があった。

 ところが、何事にも頭のキレるインダはコンピューター技術をネット上で独学し、先生が作り上げたチャットプログラムにハッキングによってアクセスし、そのプログラムを書き換えてしまったのだった。

 ある日、先生が学校が終わったあとに家でチャットのホームを立ち上げると驚いたことにもう一つの秘密なチャットルームが出来上がっていた。

 その秘密のルームへと入室してみると、人数は8人ばかしいた。

 そこにはインダとガラメのIDがあった。今は誰も話していない。

 先生が文字を打った。

Фреедом  : なんだここは、誰が作ったんだ?

 するとすぐに返事が来た。ガラメのIDである。

ептилиан : せんせい、ここ、インダが作ったんだよ

Фреедом  : やっぱりそうか。インダ。なんでここを増設したんだ? 

 インダは見ていないのか返事がなかなか来なかった。

 先生はそないだに元のチャットルームにも同時に入ることができるのかやってみると、二つ同時に入ることができた。

 元のルームにもインダとガラメのIDがあった。ここは13人ほどいた。

 ここはもう一つのインダの作ったルームと違いみんながよく喋っていた。

 何の話をしているのかとログを追って見ていると、どうやらガラメが今朝に見た夢の話を支離滅裂でわかりづらい話し方で熱心にずっと話していて、それをみんなが適当にツッこんだり、呆れたりしているというよくあるパターンだった。

ептилиан : 足か手か、どっちかわかんないんだけれどもさ、たぶん手かな?親指のさ、下辺りだよ、左手だった。上と下、ふたつの位置にさ、位置がさ、寄生されてるわけ、虫みたいなやつ、穴が開いてんだ、で、下の穴にはさ、虫は居ないみたいだった。でも上の穴にはさ、虫みたいなやつがいた。その虫さ、たぶん妊娠かなにかしてるんだよ、お腹の中がさ、見えるんだ、なんかいるんだよ、でもさ、その虫みたいなやつ自体がさ、それ、産まれる前なんだよ、なんか殻みたいな、卵みたいな?中にいるみたいな感じで、だからぼくの手の中に、卵があって、その卵の中に虫がいて、虫の腹ン中にもなんかいるわけさ、わかる?わからない?でさ、その虫みたいなやつ、蜂っぽかったけども、身体を窮屈そうに折り曲げていた。でももうすぐ生まれようとしている風だったんだ。なのにそいつってばさ、じぶんが産まれる前なのにさ、そいつもなんか産もうとしてるんだよ、だって腹ン中になんかいるんだもの。で、そいつは上の穴にいるんだけど、下の穴はたぶんもう産まれた後なんだよ、空だった、空の殻だった。たぶん。上のやつはさ、今から生まれようとして、たぶん生まれると同時にじぶんも腹ン中のやつを産もうとしているんだよ、でさ、その虫みたいなやつか、その虫みたいなやつの腹ン中にいるやつか、どっちかがさたぶん、寄生神なんだよ、きせいじん、わかる?この「わかる?」っていうのは先生の「わかるか」の真似だけどさ、わかった?まぁいいや、続けるけどさ、寄生神なんだよ。すごくない?すごい?すごくない?どっち?神なのにさ、寄生してるんだよ、しかも神なのに、虫みたいなやつなんだよ、寄生っていうとさ、ぼく蜂に寄生された青虫を育ててたことあるけど、あいつさ、寄生されたら動かなくなっちゃうんだよ、で、動かないからさ、蛹になったんだろなって思ってたら、ある日死んでるんだよ。悲しいったらないよ、あんなの。ぼくは寄生するやつらをひどく憎む。なんでよりにもよって、生きているやつに寄生する必要性があるというんだ?憎い、憎いよ、ぼくはあいつらが。せっかく可愛がって育ててたのに殺されちゃうんだよ、あいつらに。あいつらは悪魔だ、サタンだ、ルシファーだ、死神、タナトスだ、とにかく闇に属するものたちに違いないよ、黒魔術を操る暗黒組織の使者たちだ、もしくは死者の使者だ、危ないやつらだよ、その毒針で刺されたら死んでしまう、彼らは操られてるんだよ。そしてこのぼくも……だって寄生されてたよ、ぼくもね、寄生神によって、っつうことはだよ、ぼくも操られているんだ、寄生神に。寄生神が生まれる前に目覚めちゃったから続きがどうなるかわかんないんだけれどもさ、とりあえず、ぼくがずっと寄生神によって寄生されていたということは事実だ。すごく、ショックだった。ぼくは寄生神の宿主だったわけだ。しゅくしゅ。寄生神に寄生された生命体、宿主。それがぼく。宿主って、やどぬしって読むと、なんだかやどかりっぽいからぼくは好きじゃないな。やっぱり、しゅくしゅ、って言うのがかっこいいんだと思うんだ。みんなもそうは思わないかい。なあインダ、きみはどうだい。

 先生はすこし席をはずして洗濯物を干していて、戻ってきて煙草を一服しながらチャットルームを覗いてみるとちょうどガラメが長ったらしい文章をもうひとつのインダが作り上げたというルームに一気にコピーアンドペーストによって貼り付けたときだった。

 そのときに、ある驚くことが起きた。

 ガラメのIDがそのあとに一瞬にしてルームから消えてしまったのである。

 何事が起きたのかと先生は聞いてみた。

Фреедом : あれ、ガラメのIDが消えてしまっている。なんでだろう。なんか起きたのか?

 元のルームのほうにはガラメのIDはそのままあった。

 少ししてからインダのIDでインダの作ったというルームのほうに返事がきた。

Блуе дарк : 先生、ガラメはすごくうっとおしい。ぼくこの部屋をぼくと先生とぼくのともだちだけのための聖域にしたいんです。いいですよね先生。

Фреедом : それってつまりこういうことか?この部屋はインダがうっとおしいと思う奴ら全員をインダの絶対権力によって追い出すことができるという法が出来上がっている部屋なわけか。

Блуе дарк : そうだよ先生。そうしないと、ぼくは大嫌いなガラメの意味の解らなくて下らない言葉を我慢して見続けないといけないし、いつも喋りまくってるガラメのせいでぼくが落ち着いて部屋で好きな会話さえできないんだ。

Фреедом : インダ。よく考えてみろ。なんのためにこのチャットルームは存在しているんだ。

Блуе дарк : 先生のおっしゃりたいことはわかります。みんなが気兼ねなく喋りたいことを喋られる場を先生はぼくらのために作ってくださいました。でもガラメみたいな我の強い不快になる人間の多い奴が居ると、みんな喋りたいことも喋られなくなるんです。ガラメがせっかくの場を壊したんだ。ぼくだってルームの中で先生にいろんなことを話したりしたいのに、ガラメがいつも喋ってるからぼくが喋られない。

Фреедом : 困ったものだな。これじゃ先生の愛する自由の場が意味を成さない。嫌いな人間をそうやって遮断しているといつまでたっても嫌いなままだぞインダ。それでおまえはいいのか。

Блуе дарк : ぼくは構いません。ガラメは優しいときとすごくムカつくことばかり言ってくるときがあって、どっちが本心だかわからない。くたびれてしまいます。ガラメみたいなやつと一緒にいると。

Фреедом : 先生はガラメの本心を見抜いている。ガラメは本当は優しい奴なんだ。それにガラメはインダのことがいちばん好きだといつも言ってるじゃないか。ガラメがムカつくことを言わないようになるために必要なのはインダ、おまえだよ。ガラメにはおまえが必要なんだ。

Блуе дарк : いちばん好きだと言っといてぼくを傷つけてくるあいつが本当に嫌いなんです。まるでぼくの心をかき乱して遊んでいるみたいに見える。ガラメはきっとサディストなんです。いや、サドでマゾです。変態だ。あいつが部屋に居ると、ぼくはもう嫌だです。もうきっと、ぼくはルームに来なくなるでしょう。

Фреедом : 今ちょっと、ガラメをこの部屋に呼べないか、ちょっと三人で話そう。

Блуе дарк : わかりました。ブロック機能を解きました。彼を呼んでください。

 

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Фреедом : おいガラメ。もう一つの部屋に来なさい。

 

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ептилиан : やあ。来ました。先生。

Фреедом  : よく来た。おまえさすがにいきなりの長文のコピペはやめなさい。みんながびっくりするし、ここはガラメだけの部屋じゃないんだ。もうすこし協調性を持ちなさい。

ептилиан : だってインダ、いるときでも無視するんです。ぼくが話しかけてもさ、無視するんです。悲しいよ。こんなのって。だからああやって驚かせでもしないと振り向いてももらえないんだ。

Фреедом  : 逆効果だ、ガラメ。インダがムカつくことをわかっておまえやってるだろう。おまえは傷つけても謝らないときが多い。それじゃインダから嫌われっぱなしになる。まずインダから許してもらわないとインダが口を利いてくれないのは当然じゃないか?

ептилиан : そうですね先生。ごもっともです。インダ、ぼくが悪かったよ。ごめんなさい。赦してくれ。

 するとその瞬間にまたガラメのIDがルームから消えた。先生が元のルームでガラメに言った。

 

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Фреедом  : ガラメ。明日会って謝りなさい。

 

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 ガラメはガラメで深く傷ついているのか、納得行かないのか返事がなかった。

 先生がインダの聖域ルームへ戻るとインダが何か打っていた。

 

Блуе дарк : 先生は、自由をこよなく愛する人ですよね。でもぼくは、自由よりも不自由を愛します。ガラメみたいな奴、不自由にあるべきです。ガラメの自由が、いったいどれだけの人を不快にさせ続けているか。ぼくがどれだけガラメの我儘を我慢してきたか。

Фреедом  : インダ、おまえは気づいているだろうが、おまえのほうがよっぽど我儘だ。ガラメはおまえにムカつくことばかり言うが、おまえの自由を奪おうとまではしなかった。

インダの聖域はガラメのいない場所だが、ガラメの聖域はインダがいる場所だ。

自由のない聖域とは、いったいどんなものだろうか?

インダ、おまえは嘘を言っている。

何故なら不自由を愛することのできる自由があるからこそインダは不自由を愛することができるからだ。

インダは本当には自由を愛しているんだよ。

自由とはすべての可能性を含んでいるが、不自由には不自由を選択しようとすることの自由さえない。

本当に不自由なのならば、おまえは不自由を望むことすら叶わない。

おまえは不自由を望むために自由を望んでいるのだよ。

自由を愛するものが不自由を愛することができる。

不自由とは、あれは叶うがこれは叶わないというものを言わない。それはほんとうの不自由ではない。それを不自由とは言わない。

不自由とは、なにひとつ叶わないということだ。

おまえは不自由を望むことは叶っているが、不自由でいることが叶っていない。

それは不自由をおまえが自由の意志によって望んでいるからだよ。

不自由など、どこにも存在しない。

不自由とは、死を意味している。

不自由は、なにひとつ、叶えられない。

不自由は、生きることの望みさえ叶わない。

不自由は、生きることを、望むことすら叶わない。

不自由は、生きることを、望まない。

不自由は、死を望まない。

不自由とは、なにも存在しない存在。

それが不自由だ。

ほんとうの不自由は、不自由など、望んでもいない。

死は死を望まない。

死を作り上げることのできる存在、不自由を作り上げることのできる存在、それが自由の存在だけだ。

存在とは、自由のことだよ。

自由とは、存在のことだ。

存在は、非存在になることが、叶わない。

自由は、不自由になることが、叶わない。

おまえは悲しみを愛する子であることを先生は良く知っている。

インダ、自由こそが、悲しいものなのだよ。

永遠の存在ほど悲しいものはない。

だから先生は、愛している。

永遠を。

自由を。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、インダの聖域ルームはなくなっていた。

 という夢を見て目を醒ました先生は、熱い涙を流しながら、眩しい日差しのなか、二度寝した。

  先生の守護霊はそんな先生をやさしい眼差しで見つめていた。