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愛しい人ができたの。
恋人のあなたには少し言いづらいことだけれど、彼は愛する奥さんと子供のいる人で、43歳の役所勤めの平凡でフランス文学と音楽をこよなく愛する素敵な、とても魅力あふれる人なのよ。
親子ほど年が離れてるって?彼はわたしの父親にどこか似ているのかしら。
出会いはレイトシネマをいつも見に行く小さな映画館。
ゴルゴダの丘」をやってたのよ。私イエスを愛してるから観に行ったの。
独りで。だってあなたいないんですもの。
お酒を実は隠し持って行ったの、最近手放せなくって。
ブランデーを瓶飲みしてたら、半分も観ないうちに眠くなっちゃって、駄目ね、わたし。
ちょうど隣にいい枕があったので、借りたの。それがわたしと彼との出会い。
勘違いしないでほしいのだけれど、肩じゃなく、膝のほうよ。
頭の後ろに何か硬いものが当たってるのは気づいてたんだけれど、そのまま夢の世界へ行ったのよ。
もういいやって感じで。相手がどんな顔かも知らない、キモイおっさんかもしれない、でもそんなこともうどうでもいいと思ったのよ。
起きたら輪姦されて冬の港に置き去りにされてるかもしれないと思って眠ったらほんとにそんな夢を見たのよ。
いい夢だったわ。今度夢で逢ったら全員皆殺しにしよう、そう思いながら目を開けたのよ。
肩を軽く叩かれて、目を開けたの、するとそこに彼の顔があった。
彼は教養深い優し気な顔の口元を引きつらせていて、私を透き通った、でも暗い海の色の目で見つめて細かく震えていたの。何故だか。
私はもっさりした動きで起き上がりながら彼を見つめて涎を手の甲で拭ってこう言ったのよ。
「いやぁ、よく寝ちまったなぁ」
彼はそれを聞いた瞬間噴き出したのよ。失礼でしょう。
っておまえのほうが失礼だろって今突っ込んだ?
わたしは彼への恋に落ちた。底の見えない穴のように感じて、今すぐ彼とファックしたいと強く願った。
わたしのあそこは、瞬間的にぐっしょぐしょだったし、彼の立つかどうか少し怪しいちんぽを待って、開いてた。
わたしはまだ酒の回りで全身を侵されていたので、ぼんやりと彼にこう囁いたの。
「立って」
彼は立った。そして私に向かって照れたように微笑みながら言ったわ。
「きみも立てるかい?」
わたしは恥ずかしくなって、途端に顔を真っ赤にしてしまったの。なんて、なんて、積極的な人なのだろう、そう思ったのよ。
言われないまでも、わたしのあそことあそこも、もうこれ以上立たないくらいに立っていたから、恥ずかしくてしょうがなかったけれど、わたし応えて言ったの。
「もう立ってるわ」
彼はまたぷって噴き出して笑った。そして笑い終わって私の目の奥を見ながら言った。
「それは失敬。ぼくの目は少し濁ってるようだ」
わたしは訳がわからないんだけど、証明しようとしたのか、服を脱ぎだしたのね。
彼は慌ててそれを手で止めて、「少しどこかで休んだほうがいい、近くに喫茶店があるから、そこで水を飲もう」
そう言った。
わたしはぐったり椅子に倒れてたけど、それを起こして彼は喫茶店へと連れてってくれた。
行き先がホテルじゃないことに下唇を噛んで、噛みすぎて少し血が出た。
席へ着かしてもらうと、彼は無言でグレーのハンカチを渡してくれた。
わたしが、意味をわからないでいると彼はハンカチで私の口を拭ってくれた。
「ごめんなさい」とっさに私は謝った。焦点がなかなか合わない目で彼の目を見ようと必死になるんだけど彼の目が見えずに見えるのはグレーの海に塗られた赤い血だった。
彼はがぶがぶとわたしに水を飲ませた。そしてトイレに着いてきてくれた。
トイレの中で彼の指が私の粘膜の部分を触って、わたしは何度も吐いた。
で、少しよくなって、わたし彼に言ったの。
「ありがとう。わたし、何かお礼をしないと」
「気にしなくていい。無事に家まで送ってくよ」
私は少し考えて、紙にこう書いたの。
≪わたしは、あなたにあげられるものが一つだけある。あなたがそれを求めるか、求めないか、あなたの自由≫
彼はそれを読んで、私を見つめてまたふわっと微笑んだ。そして俯いて口に手を当てて深く思案するような顔をしてこう訊ねた。
「きみはそれを知ってるのかい?」
わたしは知らなかったけれど自信たっぷりに応えた。
「ええ」
彼は鼈甲の真ん丸眼鏡がとても似合っていて、髪はやわらかくカールして綺麗な栗毛だった。
わたしは彼に見惚れてたの。彼もその間ずっとわたしを静かに見つめていた。
ごくりと小さく喉を鳴らして、彼は応えた。
「ぼくにそれをくれるの?」
わたしは、少女のように「うんうんうん!」って三回も頷いた。
彼は震える口元で「いつ?」と訊いた。
「今からでも」わたしは興奮して言った。
彼は目頭を押さえて、ゆっくり話し出した。自分には、一応愛する妻とまだ幼い子供がいる。もう少し、時間がほしい。ただでそれをもらえるとは、ぼくも思っていない。
わたしは心の中で歯ぎしりした。
突然立ちがあり、「もう帰るわ」そう言ってよろけながらも速足で歩いて行った。
彼は私のコートを持って、急いで追いかけてきて、「待ってくれ」と焦った顔で店の片隅でわたしを引き留めた。
「どこか、別の場所へ行かないか」
必死に、懇願するように、彼のそんな姿を見て、私はもっと激しく彼を困らせてみたいと思った。
「家に帰りたくなったの、送ってくださる?」
彼は悲しそうな顔をして、少しの間のあと、こう言った。
「また会えるかい?」
店にいる客たちの視線を感じて、「とにかく店を出ましょう」とわたしは言った。
そして彼の車の中に着いたとたん、彼は私を見つめて言った。
「考えが決まったよ。今すぐにそれをくれないか」
私は彼の青い闇に浮かぶ漆黒の月のような目の奥を見つめながら小さく頷いた。
彼はその瞬間、優しく微笑んで輪っかにした指を咥えて音を鳴らした。
どこからともなく7人の奇妙な仮面を被った男たちが現れ、わたしは森の奥で髪を持って引き摺り回されて輪姦され、気が付くと港に捨てられていた。
私を犯したのは数えて8人だった。愛しい彼が、仮面を被って混ざってたのよ。
わたしはそれをわかっていて、だからわたしは8回とも、ものすごい快楽の絶頂にいったわ。
わたしは、確かに彼にあげられたのよ、彼の求めるただ一つの私の中に在るものを。
そして、彼の中にわたしが求めるただ一つのものを、わたしはもらえたの。
で、誓ったの。
次に彼に会ったら、彼の私の中に求めるもう一つのものが、私の彼の中に求めるもう一つのものだと。
それは、私は知ってるのよ。
彼を愛してしまったの。
彼はグレーの月に浮かぶ血の色の海。