Kikkai dream

ひとつめ。

 

「こず恵、結婚しよう」とお父さんが言った。

待っていた言葉だった。さほど驚かず。

そう言ってくれる日が来ることを、信じていたし、来るのはもうわかっていた。

私は嬉しい気持ちを必死に押し隠して平静を装ってお父さんを見上げた。

 

 

ふたつめ。

 

大事な仲間二人と向かうべき屋敷へと向かう。

亀梨には車の中で待ってもらうことにした。やることを済ませればすぐにこの場を後にできるようにするためにだ。

しかしなんとしたことだろう!不覚にも私は屋敷の中で主謀者の男の罠にまんまとはまり人質になってもうた。

驚いたことにその男は我が仲間亀梨の顔にそつくりだったのである。

もう一人の仲間もアホが、俺に続いて縛られてよる。

その瞬間だった。主謀者の男が私を見下ろし、何十人といる隷属者どもらに不敵な笑みを浮かべつつ命令し、何事かを行った。

その瞬間、私の外部情報を視覚的に感じ取る共感覚能力がこんな時にだけ正常に作動、亀梨の乗っている車が爆発したことを知る。

あまりのショックに私はすべての策略を主謀者に白状し、組織の一員になることを誓い私ともう一人の仲間は解放された。

徐々に水没していく屋敷の中、包帯で体中に巻いた視界の悪さもあり暗い階段を降りてゆくだけで疲労と朦朧とした感覚が凄まじく空間が歪んで仕方なかった、しかしその時私は擦れ違っていたのである。

自分とそつくりな男、その男の肩目掛けて後ろから鉄パイプのようなもので思い切り殴った。殴った男は亀梨であった。

殴られた男の肩が機械な音を発して破壊された。主謀者はロボツトだったのである。

亀梨の負った傷はでかく、片目は開かなかったがなんとか屋敷から逃げとおせられた。逃げたあともう一人の仲間の男はまだ屋敷内に居て組織の連中に俺の考えた脚本だとのたまっていたようだ。何故そんなアホな嘘をつくか知らんが、まあアホだったんだろう。もうあいつはほっとこう。

街はまだ締め切った店と灯りを消しきった暗い道ばかりでコンビニでトイレを借りて水を買いたかったがそれも叶わず、亀梨の待つ京国駅へ行こうとするも、どっちに行けばいいのかさえわからない。とにかく真っ暗な道を歩いていると何人かの人たちに会い、京国駅はこっちですかと訊いてみたら合っていたようでほっとした。道路を横断する猫に向かって走っていき「はよ渡れ!」と叫んでは助けてやったりしながら、道の脇で銀狐の傷ついた家族たちに出会っては悲しみ、そんなこんなしているとまた亀梨から電話、電話に出て亀梨が学校に行くまでに会いたいと言っていたので「学校は何時から?」と訊くと「明日の昼から」と言う。明日の昼までに会いたいということは今から向かう京国駅はそれまで着くかわからないくらいに遠いということかと途方に暮れてると電話が切れてしまう。とにかく暗い道を一人でとぼとぼ歩いてゆく。崖を上るちいさなイノブタを応援しているとまた電話がなり、すぐに切れてしまう。こちらからかけて、間に合うかどうかわからないし、この暗さだし、迷ってしまいそうだ、今日はもう怪我の傷もあることだし、会うのはやめたほうがいいんじゃないかと言い、黙り込んでいる亀梨に正直に言った。「命を助けてもらったのに、なんか感謝を伝え切れない、つまらないことしか言えそうにない」携帯の向こうからは亀梨の無言の寂しげな感覚が伝わってくる。この電話、電話代がはんぱないんだ、ごめん。と言うと「時間計ってないと」と優しい声で返って来た。今日は会うことはやめることに同意してもらって電話を切った。

切ったあと、ふと寂しくなる。命を懸けてまで助けてくれたのに、今日死んでもおかしくない傷を亀梨は負っていたのに、今日は会わないほうがいいと私は言った。

もう今日しか会えないということを亀梨は感ずいていたんじゃないのか。

でも電話をかけることがもうできなかった。

自分は、死んででも亀梨に会いに行きたいという気持がなかったことをわかっている自分が会おうとすることを拒んだようだった。

亀梨は、自分から会いに来ることができないくらいに、負傷していたことを心の奥で私は解っていたのに。

思えば、自分の帰る家がどこにあるのか思い出せない。

意識が戻ると、なんとしてでも会いに行けばよかったと後悔した。