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ちいさな湖

恋心が戻る。そんなことが、ある。さみしいよ。苦しみと喜びの交じり合った言葉を何故人は作らなかったのだろう。俺はもうずっと苦しみか喜びか分け隔てられない感情と感覚に心が震えている。喜びとも呼べるその感覚に打ちひしがれている。人間の想いは、言葉以上のもので言葉で決して表せないその想いを言葉の世界でしか表現できない、どうにか表現しようと苦しみながら言葉でその想いを知ろうとする、そのけなげさは、愛しんでも愛しんでも愛しみきれないつたなさのちいさな湖を眺めているような感覚になる。雨がやまなければ境界の見分けのつかないちいさな湖の群れたちを。表現の限界など、ないよ、君の言葉に、限界はないよ、そう優しくみなもにささやきながら、静かに雨の含んだ土をちいさな湖の中へうめてゆく。彼はやがて、詩人になるだろう。彼はやがて、長い詩のような物語を書くだろう。彼はやがて、すべての言葉を疑い、すべての言葉を信じるだろう。雨の含む冷たい土を求めながら。湧き水を堰きたてる土をさみしい床へ招きいれながら。いらないものを待ち受けながら。君の光は濁ってゆく。魚は殺し、喰う。水は枯れ、それでも土を求める。彼はやがて、水の幻想の中で、死を受け入れるだろう。そのあとも水を失くした湖は、言葉だけで、物語を作り上げるだろう。やがて水の音を、忘れていたその音を彼は聴くだろう。やがて彼は、雨の湿った土の上に横たわっている彼を、言葉で表現しはじめるだろう。土にまみれ、濡れそぼった言葉で。