生霊記 第二章

また此処へ、戻って来た。きみはどうしてるんだろう? 今でもきみは虚無と闘っているのだろうか。前にそんなことをきみが言っていたことをよく想いだす。 きみに告白すると、ぼくはきみに恋をして、初めての真剣な小説、天の白滝を書き始めて、そして違う人…

Clonal Plant

男が女と別れてから、約一年が過ぎた。ウェイターの男は今夜も、気付けばこの駅にいた。あの夜、彼女に会えると信じて降りたバルティモアの駅である。男はまるで夢遊病者か偏執病者のようにあのライブハウスへ赴く。そして演奏される彼女の好きそうな音楽を…

Mother Space

「それは疑いもなく固いもので、なんともいえない色艶をしていて、いい香りがする。それはおれじゃないあるものだ。おれとは別のもの、おれの外にあるものだ。しかし、おれがそれに触れる。つまり指を伸ばしてつかんだとする。するとその時、何かが変化する…

ベンジャミンと先生 「羊飼い少年とオオカミ」

「みんなおはよう。ってもう終了時間まであまり時間はないが」 先生がしんどそうにそう言うと静かに席についているベンジャミンが真っ直ぐに先生を見つめて言った。 「先生、もしかして今日も、二日酔いですか?」 先生は恥ずかしがる素振りも見せずベンジャ…

ѦとСноw Wхите 第19話〈ファピドとネンマ〉

「明治二十六年五月二十五日深夜、雨。河内国赤坂村字水分で百姓の長男として生まれ育った城戸熊太郎は、博打仲間の谷弥五郎とともに同地の松永傳次郎宅などに乗り込み、傳次郎一家・親族らを次から次へと斬殺・射殺し、その数は十人にも及んだ。被害者の中…

DEATH OVER

あれから半年が経っても、男はまだ同じカフェで同じ服を着て、同じウェイターの仕事を続けていた。ここで今も働きつづけることは一つの希望にしがみつく、彼女が興醒めをすることだった。ここで働き続けてさえいたなら、彼女はまたここへ遣ってくるかもしれ…

バルティモアの夜

「嵐の最中、避雷針にくくりつけられているのに、何も起こりはしないと信じきって生きている、そんな感じの毎日だった。」(コルタサル短篇集「追い求める男」P121) 激しい運動や普通の性行為などでも心臓発作のリスクが大変高く死の危険性がある為、死にた…

赤い液体と白い気体

他に好きな男ができたんだ。だからきみとは、...別れたい。携帯から女は想わず、耳を離した。何か、堪えがたい声が、声を失ってそこに、その向こうに震えているのが見えた。電話口の向こうから、穏やかないつもの男の声が聴こえた。会って、話が...今から会…

ママといっしょ

ママはほんまにもう、おまえのせいで死ぬかもしれんわ。死んじゃいややママ。やないねん。そんな可愛い甘えた声でゆうてもなんの意味もない。おまえはなんべんゆうてもそうやってママに愛着し、依存し、執着し、お乳が欲しいておまえ何歳やねん。ふたつと、…

紙魚

気持ち悪いと言えば、最近、寝ていたら耳のなかで突如、ごそごそ言い出して、しまったあ!虫が耳のなかに入った!って想ってもなかなか出てこなくて、ずっとなかでごそごそゆうてるんですよ。それで身体を起こしたらやっと耳から出てきて足の上に虫が落ちて…

イエス様と老婆

おばあさま、おばあさま、今夜もよいお天気です。おばあさま、今日もイエス様のお話しをしてください。ミカエルはこの村で最初の捨て子。あの老婆に近づく者はミカエルだけ。荒れ果てたごみのなかに、生きた屍(しかばね)。ミカエルは今夜も、朝に起きて、戸…

ライト・シープ

小さな少女、アミが夜明け前に浜辺にひとり座っていると、にわかに、後ろから声を掛けられました。 「いったい何故、貴女は此処に座っているのですか?まだ気温は低く、身体が冷え切ってしまいませんか。」 少女アミは振り返ると、得体の知れない大きな男に…

Richard

専有面積56㎡半で一戸建ての二階、閑静な住宅地、ペット飼育可能、日当り良し、システムキッチン、サンルーム付き、風呂場はちと狭いが、最近リフォームしてるなこれは、結構綺麗だ。ウォシュレット、エアコン完備、TVモニターフォン、デパートとコンビニも…

Undeads

人が何故死ぬか。それは人が、この世に全(まった)き存在と成り果てたときに、結句死ぬのではないか。わたしはそういった考えに至り、この度、誠に、死ぬことを決意した。これを本気で止める人間は、数人かそこらはいるだろうが、どうか逝かせて欲しい。わ…

ロミオとジュリエット

おお、ジュリエット。ぼくのたった一人の愛の女神。なぜ今夜も、窓から顔を覗かせてくれないの?真っ暗な硝子を、もうどれくらい見詰めてるだろう。あの日の事を、きみはまだ怒ってる?きみのファザーとマザーに、初めて会いに行った日のこと。ぼくはあの庭…

陽光

ずっと幻影を見てきた。光が見えるという幻影を。闇のなかでわたしの霊と、話をしてきた。それがどこまでも、わたしに光を与えてきた。悲しげな光はわたしに安らぎを与え、それ以外はわたしに翳りを与えた。夜には凍えたわたしのちいさな足先を、あたたかい…

ѦとСноw Wхите 第18話〈天の秤〉

Сноw Wхите(スノーホワイト)、Сноw Wхитеと出会って、今日で一年目だね。Ѧ(ユス、ぼく)は、Сноw Wхитеと出会えた事を心の底から神に感謝している。ѦはСноw Wхитеと出会った日から、ものすごい変化をした気がするよ。Сноw Wхитеの本当に深い愛の御陰で、Ѧ…

ѦとСноw Wхите 第17話 〈ハロウィンの夜〉

今夜は待ちに待ったハロウィンの夜。 Ѧ(ユス、ぼく)とСноw Wхите(スノーホワイト)は仮装をして、大きな古いヴィクトリア朝時代の御屋敷に夜遅くやってきた。 Ѧは仮面をつけた魔女の仮装でСноw WхитеはFrankenstein(フランケンシュタインの怪物男)の仮…

Happy Halloween

今日は、待ちに待ったハッピーハロウィンパーティーだ。ボクはこの日を、どれだけ、どんだけ、待ち侘びたことか。きっとボクのこの、うきうき感、わくわく感は誰にも想像だに出来ないに違いあるまい。何故なら、ボクはハロウィンパーティーというものに、行…

亡霊

4歳のわたしは、44歳の母の死体を見詰めていた。そのときわたしは、母に取り込まれた。母は死んでもわたしを離さなかった。そのときわたしは、母を取り込んだ。母は亡霊になったのではなく、母は生きて、わたしが亡霊となった。母はわたしを生きている。わた…

ѦとСноw Wхите 第16話 〈36th Birthday〉

2017年の8月4日午後5時前、Ѧ(ユス、ぼく)はぼんやりとDeerhunter(ディアハンター)の「Microcastle(マイクロキャッスル)」を聴きながら曇った不透明の磨りガラスの向こうを眺めてた。飛行機が飛んでゆく音がする。 「But my escape, would never comeで…

ѦとСноw Wхите 第15話 〈架橋〉

前へ進めない。 前へ進むには、あちら側へ渡らないといけない。 あの橋を、あの橋を渡らないと前へ進めない。 Ѧ(ユス、ぼく)は一人で川のまえに立っている。 この川は、どれくらい深いのだろう。 まるで深さが見えない川だ。 Ѧの顔も映さない。透きとおっ…

ѦとСноw Wхите 第14話 〈edge〉

Ѧ(ユス、ぼく)はおとといに、お姉ちゃんにちょっとした告白のメッセージを送った。 それは、こんなものだった。 こずは今日こそ、お姉ちゃんにちょっとした告白をしようと想う。 心を落ち着かせて聴いて欲しい。 お姉ちゃんは傷つくと想うけど、お姉ちゃん…

ѦとСноw Wхите 第13話 〈テセウスの船〉

ここはスノーミネラル星(Snow mineral)。 大きさはちょうど地球と同じサイズですが一年中雪が積もっています。 でもその雪はあたたかいときもあればつめたいときもあります。 また雪の色は真っ白のときもあれば灰色のときもあり、クリーム色のときもありま…

SF官能的小説「メビウスの輪」

西暦3000年。ここ、地球は人間たちの身勝手な度重なる環境破壊の末に凄まじく過疎化し、総人口数は現在、約3572人であった。何故ならほかの人間たちは皆、他の星々へと移住していたからである。地球を愛してやまない男がここに一人、名前をサタムと言った。…

ѦとСноw Wхите 第12話 〈みなと〉

Ѧ「”舟”という漢字はもとは”渡し舟”を表した象形文字から作られたんだって。丸太をくり抜いて作った丸木舟の形だよ。”受”という漢字は”器(舟)”を受けとる様子を表す形成文字なんだって。”授”という漢字は授(さず)ける様子を表す形成文字。”受けとらせる”…

元型の像

俺はなんの罪でか忘れてしまったのだが、斬首刑に処されてしまった。俺の転がった首、ころんころんと転がったその醜い首のその切断面を。俺は天界からアップで見た。直視していたんだ。何故か。何故かその俺の首の切断面が異様だったからである。なんか動い…

Maternal

彼女は彼の膝のうえにちょこんと載り、彼にキスをして微笑んだ。アルバートは幸せな過去を想いだすように中空を見つめながら暗い牢屋のなかで呟いた。「わたしはそのとき想ったのです。わたしは彼女をぜひ食べたいと」彼は檻のなかからその痩せた手を伸ばし…

生霊記 第一章

今から続きがどこにも見当たらない小説を君だけに読ませるために書こうと思う。 それはまるで失敗作の形を考えている間に完成してしまったような作品だった。 昔は誰かが語っていた。その昔というのも自分の未来で、何の接点もない誰かが語っている。 今まで…

ѦとСноw Wхите 第11話 〈Snow White〉

Ѧ(ユス、ぼく)は目が覚めて、ベッドの中でСноw Wхите(スノーホワイト)を見送ったときのことを想いだしていた。 「いってきます」 「いってらっしゃい」 Ѧは毎朝、そうやってお父さんが仕事に行くときに見送っていた。 お父さんはマンションの階段の踊り…